世界遺産/ヨーロッパの世界遺産

アントニオ・ガウディの作品群/スペイン

海の波や動植物の色彩・曲線を積極的に取り入れて独自の世界を切り拓いたモデルニスモの旗手、ガウディ。一見派手なその造形に、人と環境に対する温かい思いが込められている。今回は、サグラダファミリアの生誕のファサードやカサ・パトリョ、グエル公園をはじめとする7作品を登録したスペイン・バルセロナの世界遺産「アントニオ・ガウディの作品群」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

ガウディの名作7点を登録した「アントニオ・ガウディの作品群」

「アントニオガウディの作品群」のサグラダファミリア、生誕のファサード

サグラダファミリア。ガウディは設計図を用いずメモと模型で建設を進めていたが、内戦の混乱でほぼ紛失。職人たちの記憶とわずかな図面をもとに工事が進められている

海の波や貝殻、植物の枝や動物の体など、自然界に存在する曲線を多分に取り入れた独特のデザインで知られるガウディの作品群。奇抜・派手といったイメージが先行しがちだが、ガウディが「すべては自然という書物に書かれている。人はそれを読む努力をしなければならない」と語るとおり、自然の造形を参考に生み出した色彩や曲線は柔らかで温かく、機能美に満ちている。

バルセロナにはこうしたガウディの数々の作品が残されているが、そのうち7点が世界遺産に登録されている。今回は「アントニオ・ガウディの作品群」の全構成資産を紹介する。

世界遺産「アントニオ・ガウディの作品群」の構成資産

カサ・パトリョの吹き抜け

カサ・パトリョのパティオ(中庭。吹き抜け)。下層ほど青は淡く、窓は大きく造られている。一定の光量を保つための工夫だ。窓やドアの形もユニークで、すべてが手作り

グエル邸屋上のオブジェ

グエル邸屋上のオブジェ。タイルを砕いてモザイクのように描いた粉砕タイルの図柄が美しい

アントニオ・ガウディの作品は、まず1984年に「バルセロナのグエル公園、グエル邸、カサ・ミラ」の名前で世界遺産に登録された。2005年、これに12点の作品を加えて拡大申請がなされたが、登録に成功したのは4点で、以下の計7点が構成資産となっている。
  • グエル公園
  • グエル邸
  • カサ・ミラ
  • カサ・ビセンス
  • カサ・バトリョ
  • サグラダファミリア(生誕のファサードと地下礼拝堂)
  • コロニア・グエル教会(地下礼拝堂)
このうちサグラダファミリアが未完成でいまだ建設中。グエル公園とコロニア・グエル教会は未完成のまま工事が終了している。また、カサ・ビセンスは私邸であるため内部は公開されていない。

 

バルセロナに行ったら必ず見てほしいのがサグラダファミリアとカサ・パトリョ。加えてグエル公園を見ればガウディ建築はかなり堪能できるだろう。個人的に好きなのはコロニア・グエル教会。バルセロナ近郊の人気スポット、モンセラットに行く人は、道中にあるのでぜひ! 以下ではガイドのオススメ順に7件すべてを紹介する。

モデルニスモの極地、カサ・バトリョ

カサ・パトリョのファサード

カサ・パトリョのファサード(正面)。豪商ジュゼップ・パトリョ・イ・カザノバスから邸宅の改築を依頼され、1906年に完成した。骨のようなデザインが散見されることから、通称は「骨の家」

カサ・パトリョの屋上

一説では、カサ・パトリョはカタルーニャ地方の守護聖人サン・ジョルディのドラゴン退治を模しており、屋上にある上の湾曲がドラゴンの背だとか。骨のようなデザインはドラゴンの犠牲者たちのものともいわれる

個人的な話なのだが、私は絵が大好きだ。三次元の建物や彫刻より二次元の絵の方がより美を抽出・洗練できるという意味で、アート的な作品が多いと感じるからだ(絵の方がすぐれているという意味ではない)。だから私にとってバルセロナはガウディやモンタネールよりもピカソやミロの街だった。

ところが、このカサ・パトリョには本当に衝撃を受けた。ガウディが目指したのは美の抽出ももちろんだが、それ以上に、いままさに生きている人間の幸福。

たとえば全体の造形。幼少期から身体が弱く持病を持っていたガウディは、飛び回って遊ぶことができなかった代わりに、動植物をよく観察して絵を描き、彼らが自分をよく癒してくれることを知っていた。ガウディが自然界に見られる曲線を積極的に取り入れたのは、自然のやさしさや温かさを再現したかったからなのだろう。

 

カサ・パトリョ

カサ・パトリョ。ガウディは自分の手の石膏模型を使って手すりの使い心地を何度もチェックしたという

視覚的な効果はもちろん、ガウディは使い勝手にこだわっていた。階段の手すりやドアノブ、椅子の背もたれといった一つひとつの使い心地を試しながら、何度も何度もデザインをやり直したという。

たとえば光。ガラスや鏡、パティオの吹き抜けによって自然光を隅々にまで届かせようとする工夫は、病弱ゆえに心を震わす光に敏感だったからなのだろう。パティオを彩る美しい青の装飾は下層に行くほど薄く、窓は大きくなっている。これはどの階にも同様に快適な光を届けるための工夫なのだ。

ガウディにとって、カサ・パトリョのデザインは奇抜でも派手でもなかった。彼が目指したのはただひとつ、使い手の幸福だったのだろう。

 
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