涙なしには観られない名作『チョコレートドーナツ』
本当にいい映画です!
2013年のGLAADメディア賞長編映画(限定公開)部門で最優秀作品賞に輝き(LGBTにとって最も有意義な作品だと認められ)、全米の映画賞で観客賞を総なめにした(一般の観客に最も胸を打つ作品として支持された)作品です。
1970年代、ウェストハリウッド(LA)のゲイクラブで毎夜ドラァグクイーンとしてショーを披露し、家賃を滞納しながらも歌手になる夢を見続けているルディ(アラン・カミング)が、弁護士のポール(ギャレット・ディラハント)とつきあうことになり、麻薬で逮捕された母親に代わってダウン症の少年・マルコを引き取ります。二人はマルコを愛情たっぷりに育てますが、同性愛者を嫌悪する悪魔のような男が、彼らの幸せを踏みにじり…。
チョコレートドーナツは、マルコの大好物であり、この家族の幸せの象徴です。この映画を観た方は誰もが、マルコがあの天使のような笑顔でドーナツを食べたり、歌ったり、ダンスをしたりする姿に魅了されることでしょう。そして、「オカマやホモのような変態」よりは実の親の方が育てた方がいいに決まってると言ってマルコの幸せを奪う社会の不条理に憤りを覚え、涙を流しながら、ルディとポールのような愛情に満ちたゲイパパの方があの母親よりもどれだけ親にふさわしいことか、と思うことでしょう。
『トーチソング・トリロジー』を彷彿させるとツイートしている方がいらっしゃいましたが、本当にそうだと思いました。時代は1970年代(まだまだ同性愛者に対する激しい差別がまかり通っていました)。主人公は人情に厚いドラァグクイーン。「私は(場末なクラブの女装かもしれないけど)決して悪いことはしてないし、何も間違ってない」と胸を張り、肩肘張って生きています。そんな主人公に数少ない幸運が訪れ、ようやく幸せになれたかと思ったら、ゲイ嫌いな連中がよってたかってその幸せをぶち壊し…。深い愛に満ちていて、気高くて、本当に素敵で、泣けてきてしかたがない、愛しくて、せつなくて、ずっと心の中で輝き続けるような名作なのです。
ルディを演じたアラン・カミングの演技も素晴らしかったと思います。アラン・カミングはバイセクシュアルであることをオープンにしている俳優で、映画だけでなくブロードウェイ・ミュージカル『キャバレー』でトニー賞も受賞している実力派。今回は、主役というだけでなくリップシンク・ショーや歌も披露し、大活躍でした。
ショーや歌といえば、グロリア・ゲイナーの『I Will Survive』をはじめ、70年代らしい名曲がちりばめられ、映画を素敵に彩っているのも魅力です。そして、エンドロールで流れる歌は、オープンリー・ゲイのルーファス・ウェインライト。『ブロークバック・マウンテン』に続いて、せつないバラードで映画の余韻を深めてくれたのでした。
『チョコレートドーナツ』
2012年/アメリカ/監督:トラビス・ファイン/出演:アラン・カミング、ギャレット・ディラハント、アイザック・レイバほか/配給:ビターズ・エンド/シネスイッチ銀座ほかにて公開中
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