ひさしぶりにブライアン・シンガーが監督した『X-MEN:フューチャー&パスト』
大統領らを前に、全世界に向けて「ミュータントたちよ、立ち上がれ」と演説する(若き日の)マグニートー
2023年、センチネルというミュータントを殺すために開発された兵器が大量生産され、世界は荒廃していました。未来のX-MENたちは一致団結して(これまで敵対していたマグニートーとプロフェッサーさえも手を組み)、センチネルとの絶望的な戦いに挑んでいました。もうダメかもしれない…と観念したX-MENたち。最後の手段として、キティの「魂をタイムワープさせる」能力を使い、不死の肉体をもつウルヴァリンを、センチネルが生まれるきっかけとなった1973年に送り込むことに…
今作でも、マイノリティがどのようにマジョリティに対峙するか(敵対か平和的共存か/カミングアウトするべきか否か)というテーマは健在です。そして、物語の鍵を握るのは、チャールズ(若き日のプロフェッサー)とエリック(若き日のマグニートー)の間で揺れ動くレイブン(若き日のミスティーク)。彼女がどちらの側に立つかが未来を決めるのです。
キホン、マグニートーは悪役です。なのですが、終盤、(いろいろ乱暴を働いたあとで)「ミュータントたちよ、誇りを持て。表に出よ。立ち上がれ!」という演説を行うシーンは、思わず感動してしまうものがありました。ブライアンはここに何をこめたのでしょうか?
町山さんは先述の記事で、このシーンがハーヴェイ・ミルクの「みなさん、カミングアウトしましょう!」という演説の引用であると指摘していて、けっこうネット上でも広まっています。(ちなみに、2012年に再選を果たした時のオバマ大統領のスピーチも、ハーヴェイ・ミルクを引用していると言われています)
原作では、このマグニートーの演説は、単に人類に対する宣戦布告であり、邪悪なものでしかなかったようです(こちらに掲載されています)。それが、「ミュータントであることを誇りとし、カミングアウトしよう」という、他のミュータントたちを勇気づけるような、感動的な意味合いを持つものに変えられたのです(若いミュータントの子がTV放送でこの演説を観ているシーンがあり、映画『ミルク』のアカデミー受賞スピーチでダスティン・ランス・ブラックが、ハーヴェイ・ミルクが田舎の小さな町に住むゲイの子に向けたスピーチで号泣したと語っていたことを思い出しました)
しかし、マグニートーの演説がミルクの引用であるということについて、その背景にある情報が省略され、ハーヴェイに代表されるゲイ・ライツ・ムーブメントがあたかも「過激」であったかのように誤解されると怖いな…と危惧したりもします。セクシュアルマイノリティ(LGBT)の権利擁護運動は、カラフルでハッピーなお祭りとしてのパレードに象徴されるように、ずっと平和的なもので、暴力に訴えることはありませんでした。世間のみなさん、そこは間違えないでくださいね。
ただし、ハーヴェイ・ミルクの伝記本『ゲイの市長と呼ばれた男』を読むと、当時(映画と同じ1970年代前半)、表に出ることなく裏で政界や財界に働きかけて社会を変えていこうとした「穏健派」の人たちと比べて、ハーヴェイが断固としてカミングアウトを主張したり、ゲイ差別発言をしたビール会社に抗議してボイコット運動を展開したりという点で、いわば「過激派」と見なされていたことがわかります。しかしそれは、ゲイの生きづらを解消し、権利を獲得していくために必要な手段であり、今日ではハーヴェイの方が英雄とみなされ、(大統領勲章を受章するような)偉人として歴史に名を刻まれているのです。
さて、今回の『X-MEN』のセクシュアルマイノリティ的見どころとしては、今年2月にレズビアンであることをカムアウトし、喝采を浴びたエレン・ペイジの活躍もあります。エレンが演じるキティ・プライドは、今作でたいへん重要な役割を担っており、思わず「がんばれ~!」と応援したくなります。さらに、マグニートーがイアン・マッケラン(オープンリー・ゲイの大先輩)だし、監督もブライアン・シンガーだし、当事者が大活躍しているのです。本当は、エレンと同じようにバイセクシュアル・カミングアウトを果たしたアンナ・パキンもローグ役で出演予定でしたが、今回は編集の都合でカットされたそうです…(残念。でもDVDに含まれる可能性があるそうなので、そちらに期待)
『X-MEN:フューチャー&パスト』
2014/アメリカ/監督:ブライアン・シンガー/出演:ヒュー・ジャックマン、マイケル・ファスベンダー、ジェームズ・マカヴォイ、ジェニファー・ローレンス、イアン・マッケラン、エレン・ペイジ他/配給:20世紀フォックス/全国で公開中
(c) 2014 Twentieth Century Fox