固定残業手当には思わぬ落とし穴も!
安易に固定(定額)残業手当を導入するとトラブルの種に!
労働時間に比例して「物的成果」が上がるのであれば、超過労働時間に対する手当はある程度うなずくことができます。例えば工場などの生産現場では、時間の経過とともに製造物の完成(積み上がり)が見えるのでイメージしやすいことでしょう。
労働基準法は、このように「時間」そのものに焦点を当てた法令なのです。でも昨今の企業現場を見てみると、昔では考えられないようなIT技術の急速な進歩などで、「知的成果物」を上げる業種が増加しているのも事実です。
企業現場を検証してみると、「労働時間の経過=知的成果物の積み上がり」が成り立たなくなってきているようです。企業として効率的な労働時間管理をこれまで以上により深く考える時代となったと言えるのでしょう。
労働時間管理は根深い問題。これを実現するため、各企業では、固定残業手当制度(定額残業手当制度ともいう)の導入が進んでいます。この制度は適正に実施できれば効果的ですが、間違った運用をしてしまうと大きなトラブルを巻き起こしかねません。今回の記事で、固定残業手当導入の勘所を押さえていきましょう。
そもそも固定残業手当ってどういう制度?
労働基準法によると、時間外労働に対して2割5分増以上、休日労働で3割5分増以上の割増賃金の支払いが規定されているのはご存じのとおりです。これを効率的に実現するため、割増賃金の支払いに代えて固定残業手当を導入している企業が多いのです。■あらかじめ一定時間分の時間外労働に対する手当を支払う制度です
(例)
1.外枠の手当として別途支給
・基本給20万円+固定残業手当3万円
2.基本給の中に含んで支給
・基本給23万円(うち3万円は残業手当分として支給)
多くの企業では、概ね上記のように定められているのではないでしょうか。特に後者2は残業手当を含んで基本給としていますから、トラブルの種をまいているようなものですね。注意すべきは、固定化したと言っても、実際の残業手当は法定の計算方法でまずは算定しなければならない点です。
この法定計算額に満たない場合には、その差額を支払う必要があるのです。皆様の企業では「固定化したので差額は支払わない」としていませんか?
上記の例でいうと、法定の算定方法で計算した残業手当が5万円だった場合、別途3万円との差額2万円の支払い義務があるということです。
次のページでは、紛争事例から見る固定(定額)残業手当の解説をしています。