白井晃(構成・演出)
「昨年、三宅純さんの新しいアルバムが発表になりましたが、その創作段階から『Lost Memory Theatre』というタイトルのアルバムを出すんだという話をご本人から聞いていました。三宅さんにはここ数年舞台づくりで音楽をお願いしてきた経緯もあり、ぜひともこのアルバムをモチーフにした作品をつくることができないかと思い、今回の企画に至った次第です。白井晃芸術参与
自分がいったい何をしたいのか、どういったものをつくりたいのかと模索したとき、今まで自分たちが当たり前のように思っていた芝居のつくり方とは若干違うやり方はないものだろうかと考えました。私もこれが初めての経験になりますが、ひとつのアルバムから想起されたシーンをコラージュのように重ねながら、劇場をモチーフにした作品ができないかと考えたのです。演劇というべきか、コンサートというべきなのか、ダンスのパフォーマンスというべきなのかもわからない、そんなボーダレスな作品になればと思っています。
私自身、作品をつくる上で音楽というものを非常に重要な要素だと考えています。今回はそれを一層広げた形で、音楽と演者、そしてパフォーマーが混在しているような空間をつくることができたらという発想から、こうした思いきった企画を出しました。就任第一作ということもあり、今まで自分がやってきたものではなく、これまでやれなかったこと、やりたいと思っていたけれど実現できなかったことを、ぜひこの劇場で実現できたらと思っています。
白井晃演出作品『愛の白夜』
撮影:鍔山英次
まず戯曲があって、そこから舞台をつくっていくという従来の経緯を辿りません。あえていうなら、三宅さんの音楽が先にあり、そこから想起されるシーン群をつくっていく形になる。今回はテキストという立場で谷賢一さんに加わっていただき、各シーンにいろいろなイメージを積み重ねながらつくっていこうと考えています。場合によっては役者のみなさん、ダンサーのみなさん、音楽家のみなさんともディスカッションをしながら、劇場にまつわる自分たちの記憶というものを紡ぎつつ、作品にしていくことができたらと思っています。
三宅さんの曲から芝居をつくるという、無謀かもしれない挑戦をしてみたいと思えたのも、この数年の間の関係があったからかだと思っています。三宅さんの音楽との出会いは、CMでした。テレビを見ていたら、CMから聞こえてきた音楽に耳を奪われて……。この音楽は誰がつくっているんだろうと調べたところ、三宅さんだということがわかり、CDやアルバムを買い集めるようになりました。
その後、世田谷パブリックシアターで上演した『三文オペラ』のときに思い切ってオファーをしたところ、快くお引き受けいただきました。あのときはクルト・ヴァイルの曲を編曲してもらう形でのお付き合いでしたが、ぜひ三宅さんのオリジナル曲でお芝居をつくりたいという想いがあり、以来ご一緒させていただくようになりました。初めは二年に一度だったのが、一年に一度になり、去年は一年に二度になって……。私が芝居をつくる上で絶対的な信用とリスペクトをもって創作活動をさせていただく関係になっていると思うし、今回さらにいい関係になればと思っています。
記者会見の模様
山本耕史くんとは20年前、まだ彼が17歳のときに舞台で役者としてご一緒させていただいたのが初めての出会いでした。その後三谷幸喜さんの作品で一緒になったり、私の演出作品に出てもらったり……。去年の秋にやはり三宅純さんの音楽を用いた『ヴォイツェク』という作品で久しぶりにご一緒する機会があり、舞台を非常に大切にしている山本くんの姿に共感を覚え、ぜひまた一緒にやりたいと考えていました。今回山本くんに出演を打診したところ快諾してくれましたが、脚本もないのによくぞ引き受けてくれたなと(笑)、本当に嬉しい限りです。
美波さんには、“ぜひ僕の作品に出て欲しい”と切望し続けてきましたが、これまでなかなか実現するチャンスがありませんでした。この機会にと今回お話ししたところ、やはり戯曲もないのに引き受けてくださって(笑)。彼女を見るたびに、その美しさだけでなく、感情面のバネの強さを感じます。こうしてご一緒する機会をいただき、非常に嬉しく思っています。
白井晃演出作品『愛の白夜』
撮影:鍔山英次
森山開次さんとは、10年ほど前に『星の王子さま』という音楽劇でご一緒させていただきました。そのときはヘビの役で出演してもらいましたが、踊りながらセリフを吐くという難易度の高い演技を求めたところ、それをきちんとこなしてくださり、またいつかご一緒する機会があればと思っていました。ダンサーのオーディションを森山さんと一緒に行いましたが、技術はもちろん個性も大事に選びたいという考えがありました。ダンサーもただ芝居や歌の背景として後ろに存在するだけでなく、彼女たちの存在そのものがドラマになるようなものにしたいと思ったのです。クラシック・バレエの経験がある方々に集まってもらいましたが、彼女たちの持っている歴史などもさらにドラマとして膨らんでいったら面白いのではと思い、ダンスだけでなくそれぞれの方のお話も聞きました。個性と共にスキルも大切で、どちらも両方持ち合わせている方というのを主眼に選びました。
記者会見の模様
今回は本当に心強い出演者のみなさんに恵まれました。三宅さんの率いる生バンドで構成し、歌手のみなさん、ダンサーのみなさんも加わっていただいて、めくるめく祝祭空間をつくれたらと。カオスのような空間をつくれたら、楽しいものになるんじゃないかと思っています」