キーボード奏者 ハービー・ハンコック「処女航海」より「処女航海」
処女航海
モード・ジャズとは、1958年のアルバム「カインド・オブ・ブルー」において、トランペット奏者のマイルス・デイヴィスによって提示された新しいジャズの方法論です。
ハービー・ハンコックは、このアルバムを録音時は、そのマイルス・デイヴィスのバンドに所属していたキーボード奏者です。言わば、「処女航海」はマイルスバンドで培った感性を、自分なりに解釈し、新たに創造したハンコック流のモード・ジャズ決定盤と言えます。
吹き込みメンバーは、トランペットのマイルス・デイヴィスが当時売り出し中のフレディ・ハバードに変わっただけの、マイルスバンドそのもの。当時のマイルスバンドは、リズムの強弱やスピードの変化などを頻繁に行い、爆発的でパワフルな演奏が売り物でした。
それがここでは一転、クールネスとでも呼びたいような、抑えたサウンドが特徴的です。そして、その響きを重要視したクールなサウンド作りこそが、このアルバムを聴きやすく、後世に残る素晴らしい作品にしています。
新しい世界に挑戦するには、熱い思いも勿論必要ですが、冷静な判断や解釈も同じように重要です。マイルスバンドでの熱い演奏と、この自分の録音での冷静で緻密なサウンド作りを使い分けることができるハービーには、処世術という観点でも見習うべき点が沢山あります。
航海には、目的地が必要です。そして実現させるには、荒れる海に立ち向かう勇気と知識が必要です。熱くそしてクールなこの「処女航海」は、新しい航海に旅立つあなたへのはなむけにピッタリの演奏と言えます。
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トランペット奏者 ドナルド・バード「プレイシズ・アンド・スペイシズ」より「チェンジ(メークス・ユー・ウオント・トゥ・ハッスル)」
プレイシズ・アンド・スペイシズ
前者のクールながらも重厚な海を思わすサウンドに対して、この「プレイシズ・アンド・スペイシズ」は、空中に浮遊するかのような軽いノリの心地よいサウンド。まさにジャケット写真そのままのジャズが特徴的です。
ドナルド・バードは、「ハード・バップ」期より次代を担うと期待されたトランペットの逸材で、ポスト「クリフォード・ブラウン」の最有力候補の一人でもありました。言わばストレート・アヘッド・ジャズ(正調な4ビートジャズ)の旗頭でもあった存在です。
そのドナルドが、大学でジャズを教えるようになって、自分より何世代も若いミュージシャンたちと交流を持つようになりました。その教え子の中には、「ブラックバーズ」という名でデビューするバンドもいました。そして最重要なのが、兄弟で活躍したラリー&フォンスのマイゼル兄弟です。
マイゼル兄弟は、その名も「スカイ・ハイ・プロダクション」という名のプロダクションを立ち上げ、多くのミュージシャンをサウンド面でプロデュースします。彼らの特色はそのまま「スカイ・ハイ・サウンド」と呼ばれた、まさに乗りの良い浮遊感を伴った心地よいサウンドです。
そのスカイ・ハイ・サウンドがいかんなく発揮されたアルバムの代表作ともいえるものが、この恩師に当たるドナルド・バードのアルバム「プレイシズ・アンド・スペイシズ」でした。
マイゼル兄弟とドナルドの共演は、この以前にもっとも売れたアルバムとして「ブラック・バード」があります。そちらも大傑作ですが、この「プレイシズ・アンド・スペイシズ」はテーマを空(飛行)に絞ったコンセプトアルバムとして成功しています。スカイ・ハイ・サウンドと空(飛行)とは、まさにドンピシャな組み合わせと言えます。
この時期おなじみのチャック・レイニーのベースとハービー・メイソンのドラムは、いつも通りの好相性。1曲目の「チェンジ(メークス・ユー・ウオント・トゥ・ハッスル)」から終曲の「ジャスト・マイ・イマジネーション」までグルーヴにつぐグルーヴ。ノリノリのままに、あっという間に聴き終えてしまいます。
新しい環境に慣れるまでのストレスは、たまには騒いで発散させることも重要。ダンサブルで爽快なこのアルバムは、まさにストレス発散に打ってつけのジャズ。心地よい清涼感と爽快感を与えてくれるアルバムです。
新しい世界へ飛び出すあなたへ向けた、新生活応援のジャズはいかがでしたか? ちょっぴりの不安と大きな期待を胸に、明日から自分の信じる道をまっすぐに進んでいってくださいね。また次回お会いしましょう!
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