四季折々、その季節の旬の「野菜」とそれを生かす料理と技術は、和食の本領発揮ともいえる。バラエティ豊富な野菜料理が存在するのも和食ならではだし、精進料理からも影響を受けている実に奥行きのある世界だ。その日のテ-ブルがが魚や肉がメインの料理であっても、必ず野菜を添えるのは、彩りを考えるプロの感性、また、家族の健康を考えるお母さんの愛情だ。みんなに愛される野菜料理。ここでは、豆腐料理を含めた定番の野菜料理にワインを合わせてみよう。

おひたし(ほうれんそう)

スパイヴァレー ソーヴィニヨン・ブラン 2012 (ニュージーランド) 1890円

最も身近で、最も簡単で、最も和食っぽい野菜料理が「おひたし」だろう。野菜を出汁に浸して作るところから「おひたし」。最近では煮た野菜に醤油をかけてもおひたしと呼ぶことがある。簡単と書いたが、丁寧に造られたおひたしは意外に手が込んでむしろ芸術品といえるものさえある。歴史は古く、醤油が生まれる前から存在する。そのころは煎り酒やお酢で味付けし、魚介を混ぜることもあったとか。

おひたしと言えばやはり「ホウレンソウ」。そのほか、小松菜、春菊、菜の花、三つ葉、セリなどが知られるところ。洋野菜のクレソンもおいしい。葉野菜独特の青っぽさ、植物の香り、土の香り、収斂味、甘味、軽いスパイシーさなどが感じられ、これに出汁の旨味が重なる。

この風味にはもうこれしかないという品種がある。それは、ソーヴィニヨン・ブランだ。葉野菜の風味とぴたりマッチし、美しく清々しいハーモニーを奏でる。決して重くなく、飽きずに楽しめる組み合わせで、体の中がきれいになっていくような気持ちいい組み合わせだ。

ここでおすすめは、ニュージーランドのソーヴィニヨン。澱と一緒に漬け込むシュール・リー製法で通常のソーヴィニヨンよりもちょっぴりコクもある。お醤油がけのおひたしでも大丈夫。


 

煮物(筑前煮)

ドメーヌ ド モンシャヴィ モルゴン 2008(フランス)  1774円

葉野菜の煮たものはおひたし。根菜を煮れば筑前煮である。鶏肉が入るけど野菜料理と言えるだろう。筑前煮とは「筑前」の煮もので、「筑前」とは北部九州、福岡県西部あたりを指す地域。この地域がいわゆる筑前煮の本家本元だけど、地元では「がめ煮」「炒り鶏」と呼ばれ、福岡や北部九州以外で「筑前煮」と呼ばれている。ということで、全国にある根菜ベースの煮ものと考えたい。

根菜のほか、キノコ、こんにゃく、豆類などと鶏肉を炒めてから、出汁、酒、醤油、みりん、砂糖などと一緒に煮るので意外に味わいは濃い。保存食やお節料理にも向く料理だからしっかりと味がついている。それに根菜らしい、土っぽさ、甘さ、苦さ、スパイシーさが混然一体となり、根菜らしい歯ごたえと鶏肉のコクと旨味が加わる。

これには、赤ワイン。軽めの赤ワインだ。土の香りとちょっとスパイシーさを併せ持ち、カジュアルで温かみのあるワイン、ボジョレーを推薦しよう。とくに、村名が付けられたワンランク上のボジョレー・モルゴンだ。爽やかな味わいで人気のボジョレーのなかでも、しっかりとコクと深みを感じさせてくれるちょっと男っぽいボジョレー。根菜の魅力をぐっと引き立ててくれる。


 


天ぷら(野菜天ぷら、山菜の天ぷら)

シャトー マルス 甲州 白根 シュール・リー(日本) 1370円

天ぷらはもとを正せば海外から入ってきた料理である。だけど、今やれっきとした和食の代表になった。また、世界にはさまざまな揚げ物料理があるが、和食の天ぷらほど、繊細ではかなく、しかし驚くほどの迫力と小気味よさを与えてくれる揚げ物料理は他にないだろう。

天ぷらは魚介がおいしいけれど、野菜の天ぷら、精進揚げも捨てられない。野菜の味わいを生かしつつ、クリスピーな食感でいくらでも食べられちゃう。山菜ならば春の樹木と土の香りが封じ込められ、滋味と苦みは冬の間眠っていた身体を起こしてくれる。衣が薄めの鮮やかな夏野菜の天ぷらは暑さを吹き飛ばし、エネルギーを与えてくれる。秋のキノコの旨味、冬の根菜の甘味は体を温め幸せももたらしてくれる。

どの季節にもぴったりなのが、白ワイン。それも生き生きとした酸味がある爽快なタイプだ。理由は、レモン代わりになり、さっぱりと食べさせてくれるから、だ。天ぷらなどの揚げ物は不思議なことに、赤ワインではちょっと難しい。日本酒や焼酎も実はベストではない。油を使った揚げ物ゆえに、口中を洗ってくれる爽快感のある飲み物が美味しく感じるのだ。だから、シャンパンなどのスパークリングもいい。もちろんビールもいい。

親しみやすい野菜の天ぷらには、日本産ワインの代表、甲州を合わせる。南アルプス(旧白根市)で丁寧に造られる甲州を、滓と一緒に寝かせるシュール・リー方式で醸した逸品。レモンやライム、グレープフルーツのように爽やかな味わいは、天ぷらを飽きずに食べさせてくれる強い味方になってくれる。


 


湯豆腐

グリューナーフェルトリーナー2012 ヒルシュ エルフェンホーフ(オーストリア)1510円

夏なら冷奴。冬なら湯豆腐(煮奴)。揚げ出し豆腐に、肉豆腐。アレンジ料理なら白和えに、がんもどき、厚揚げ、油揚げ、おからまですべて豆腐。すごいな、豆腐。

豆腐も本流は中国だし、今や世界中で食べられているヘルシーフーズの代表といえるが、その淡いけれど深い味わいは、まさに和食の個性を言い表すにぴったりの食材・料理ではないだろうか。

ここでは湯豆腐にワインを合わせてみる。淡い、けれど深い味。これを壊さず、引きたて、同調し、融合するワイン。それは白。爽やか過ぎず、強すぎず、樽香はなし。滑らかさがあり、落ち着きがあり、適度なコクもあるが、後味の長すぎない白ワイン。

それは、グリューナー・フェルトリーナー。オーストリアの伝統品種だ。なぜその品種? それは今書き並べた個性をすべて持っているからだ。グリューナーは本当に和食に合う。どの和食ともよく合うのだ。不思議と日本酒と似るところもある。もちろん発揮とした個性を持つ熟成したグリューナーも素敵だけど、湯豆腐となら、少し若いタイプですっきりしたタイプを。あまり冷やしすぎず、口に入れてちょっと冷たいくらいがいい。湯豆腐に添えられる出汁やポン酢、ネギにしょうがに鰹節とも相性がいいからおすすめしたい。


 


ふろふき大根(味噌添え)

フレシネ アシュツリー エステート ボバル カベルネ ロゼ 1117円(スペイン)

ふろふきとはいったいなんなんだろう。
お風呂の中で蒸したから、お風呂を焚きあげるように茹でたから、お風呂のなかであかすりをする際息を吹きかける様が大根を冷ますため息を吹きかける様に似ているから、昔、漆器の乾燥室(風呂)で湿度をあげながら乾かすのに、お風呂を茹でながら乾かしたから、身体にいい大根だから「不老富貴」だから、など諸説あるようだ。知らなかったなぁ。

厚めに切った大根に隠し庖丁を入れ米のとぎ汁と昆布で静かに炊く。シンプルだけど手間がかかっている和食らしい料理だ。ほっこりと炊きあがった大根には、味噌を添える。ゆず風味だったり、肉味噌だったり、田楽味噌だったりと添える味噌でがらりと味が変わるのも面白い。

大根の優しい甘さに味噌の甘さとコク。これはロゼでしょう。
甘味のある優しいロゼワイン。品種は、カベルネ。どこか不思議に根菜の風味があるカベルネ種を使ったふうわり甘いロゼがいい。ロゼが持つほんの少しの渋味は肉味噌でも赤味噌でも合うし、甘酸っぱさは柚子味噌とも相性がいい。今回は、スペイン産の甘酸っぱいカベルネ・ロゼ。お手頃価格もお勧め理由だ。ちなみにワイン名になっているボバルも品種名。濃厚なブドウジュースにもなる品種でフルーティーさを醸し出す。





さて、お魚編、お肉編と続きお野菜編、いかがだろう。星付きの高級和食や料亭や料理屋で食べる格の高い和食もいいけれど、家庭で食べる和食も立派な世界遺産。ここではひとまず家庭でも楽しめるお手頃なワインをセレクトしてみた。

もちろんここで紹介したもののほかにもたくさんのおいしい組み合わせがあるはず。一つにとらわれず、さまざまにお試しいただきたい。
そう、和食の楽しみは常に自由なのだから。

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