『U18』はどういった方が、どのような動機で参加されているのでしょう?
勅使川原>2012年の第一期『U18』の時と、2013年の第二期では、応募してくる中高生たちに大きな違いがありました。一応オーディションという形を取りましたが、何か振りをやってもらい、次の人、次の人、というのではなく、ワークショップと同じことをやりました。その上でひとりひとりがどういう人かというのを見て、この人は向いてるな、この人はやるべきだとか、この人はいわゆる一般的に上手といわれる人かもしれないけど、彼は自分でそれをやればいい、という選び方をしたんです。第二期『U18ワークショップ』のクラス。指導にあたる勅使川原氏
第一期は、ダンスをすでにやっている人たち、いわゆるコンテンポラリー・ダンスをやってる人が多かった。なかには“私はこんな踊りができます!”とアピールする人もいました。また“もっとダンスが上手になるクラスですか?”と期待して来る人もいました。でも『U18』ではそうじゃないやり方をしたいという意味で、彼らを選びませんでした。第二期に関していうと、そういう子たちはとても少なかった。もちろんダンスをやりたいという人は多くいたはずですが、むしろ新鮮に身体を使いたい、身体をどうやって使いこなせるのかと思っている人、知らないダンスに向かってみたいと冒険する気持ちを持った人が多かった。
僕としては、やはりダンスに新鮮に立ち向かえる人がいい。ダンスのキャリアは本当にさまざまで、ダンス経験はないけどダンスに対して興味を持ってる人もいれば、なかにはクラシック・バレエをやっている人もいましたね。でもこの年代では、バレエをやっているといってもまだ形が決まりきっていない。彼らの身体はクラシック・バレエには収まらないものであり、だからこそ面白い。
第二期『U18ワークショップ』のクラス。指導にあたる勅使川原氏
僕は、クラシック・バレエのメソッドというのはとても有効だと考えています。ある種の絶対的なものを目指していくので、誰も完璧にはできないんです。クラシック・バレエを専門にやっている人も、毎日毎日訓練しないことにはできない。できるようになるためには、日々努力しなきゃいけない。ただクラシック・バレエのメソッドは、学ぶべきものがポイントとして明確化されているので、やる意味があると思う。
僕の動きもクラシック・バレエと相反するようなものではないし、バレエのメソッドを尊重しています。しかし、それだけだと身体は動ききれない。古典としてきちんと成り立っているメソッドは、現代においても有効だと思います。一方、僕がやっているダンスのメソッドは今のものだけど、過去でも有効だったはず。何故かというと、人間がそもそも持っているセオリー、道理を利用して身体を使ってるから。呼吸や身体の重さ、伸びる・緩むといったことです。言葉にすると単純なことです。そこから、身体の中で複雑に働き合うということを知っていく。また、もっともっと高度になる訳ですけど……。
第二期『U18ワークショップ』のクラス
先日パリ・オペラ座バレエ団に振付をしましたが、その作品の作り方もまさにそうです。オーレリー・デュポンやニコラ・ル・リッシュなど、パリ・オペラ座バレエ団のトップダンサーにもワークショップをしました。彼らに“僕は日本で今『U18』というワークショップを開いていて、君たちと全く同じことを子供たちもやるんだよ”と言ったら、“へー!”と驚いてましたね(笑)。そして、納得していました。
彼らには“自分の身体に立ち向かってください。過去の記憶を利用せず、新鮮にやりましょう”と言いました。“クセでやらないようにしよう”と言うと、みんなそれを喜びとして挑戦するんです。“そうだ、僕はもっと新鮮にならなきゃいけないんだ”と。ニコラに“それ、ちょっと何かのマネしてるよね”と指摘したら、“あ、いけない、出ちゃった!”なんて言ってたりして(笑)。
第二期『U18ワークショップ』のクラス
重視しているのは、今やることを組織化していくこと。組織化していくというのは、刹那的な即興とか、その瞬間がよければいいというダンスではない。感じていることを組み立てていくことができるんだ、それが面白いことなんだ、ということです。価値観というのは共有できるもので、ニコラもオーレリーもそれを理解して、実際に挑戦してました。
バレエをやってるからできる・できないではなく、その人がどのように立ち向かうかが大切になる。だから、いわゆるパフォーマンスとしてのダンスだと当然違うでしょうけど、僕のワークショップの中ではみんな同じようにできるんです。きっと『U18』の子たちも、彼らと一緒に同じように踊れますよ。もしかすると彼らの方が、“へー、よくできるね!”なんていうこともあるかもしれません。