男性ジャズボーカルのおすすめ7選……時代を席巻したシンガーたち
おすすめの男性ジャズボーカルをご紹介
>>女性ヴォーカルは「女性ジャズヴォーカル年代順おすすめ7選」をご覧ください。
【Index】
- 1953年 フランク・シナトラ
- 1956年 チェット・ベイカー
- 1956年 ナット・キング・コール
- 1963年 ジョニー・ハートマン
- 1964年 ルイ・アームストロング
- 1978年 ジョー・ウィリアムス
- 2003年 ジェイミー・カラム
男性ジャズボーカル1:フランク・シナトラ
Songs for Young Lovers & Swings Easy
これと同じように男性ジャズヴォーカル界においても絶大なる影響力を誇る看板スターがいます。それが、今回一番にご紹介する「フランク・シナトラ」です。
「新世代のシナトラ」や「○○国のシナトラ」など、いたるところでリスペクトされる大歌手のフランク・シナトラ。その影響力は現在に至ってもジャズボーカル界のみならずポピュラーシーンにまで絶大なものがあります。そのシナトラのジャズにおいての決定盤と言えばこの「スウィング・イージー」です。
1915年生まれのシナトラは、吹き込み時38歳の男盛り。私生活でも美人女優のエヴァ・ガードナーと結婚しており、ハリウッド映画「地上より永遠に」ではその演技力が認められ、アカデミーの助演男優賞も取っています。
まさに、乗りに乗っていた時期にあたります。全曲、さすがの名唱ですが、その中でも極め付けが、この曲の代表的歌唱といわれる一曲目「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」です。
この曲は、もともと女性が男性に向かって歌う内容の歌で、ファニーという言葉は、見栄えがやや残念という意味。歌詞の中でも写真には向かないなどと容姿をからかっている部分があります。
その歌詞を、男性が女性に歌うのは相当難しいところですが、シナトラくらいのプレイボーイならば、歌詞負けせずに、嫌味なく歌えるというもの。まさに、シナトラのための曲と言ってもよい程のはまり具合です。
男性ジャズボーカル2:チェット・ベイカー
チェット・ベイカー・シングス
チェットの強みは大きく3つ。1つには、中性的なとも形容される独特の声と歌い方。2つ目は、チェットがトランペッターとしても一流だということ。自分の歌の間奏を、自分のトランペットでさらに抒情的に飾ることができます。そして、3つ目は、晩年はやや残念なことになりましたが、今回ご紹介する「シングス」当時においては、銀幕のスター「ジェームズ・ディーン」に並び称されるほどルックスが良かったということです。
これで、人気が出ないはずはありません。なかでも、この「シングス」はチェットの人気を決定づけたといわれるもの。全編、チェットのアンニュイさに彩られた名演揃い。少年期から青年期へ移る時期特有の中性的な甘酸っぱさも感じさせます。
特にこの「マイ・ファニーヴァレンタイン」は、前出のシナトラ盤とはまったく違う表現で歌われており、この曲の双璧といわれる出来です。男性ヴォーカルは勿論、女性ヴォーカルがお手本にしている例も多い名唱と言えます。女性ならばうっとりと、そして男性ならばかなりの確率でうらやましいと思ってしまうような演奏です。
男性ジャズボーカル3:ナット・キング・コール
アフター・ミッドナイト
ピアニスト志向のナットは、当初は歌を歌っておらず、お客のリクエストでしぶしぶ歌い始めたという話もあるほどです。その心ならずも歌った歌ですが、深いビロードのような艶のある声は、たちまち評判となります。そしてついにはヴォーカルとして一本立ちし、50年代にはポップスの世界で「モナリザ」や「トゥーヤング」「プリテンド」など、数々のヒット曲を生みだします。
ナットがポピュラー界で大成功を収めた後に、37歳になって、自分の原点でもある弾き語りで再び名演を残したのがこの「アフター・ミッドナイト」です。
その中から、今回ご紹介するのは、ナットの昔からの十八番で、この曲の決定的な名唱と言われる「イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン」です。この曲は、1933年に作られた古いスタンダード。ペイパームーンとは、その当時に流行った写真撮影のための大道具。その名の通り紙でできた月のセットのことで、「あなたがいないのならば、こんなのは馬鹿らしい」と歌われます。
「好きな人と一緒ならどんなものでも受け入れられる」。現代にも共通する恋人たちの少し気恥ずかしい愛情表現。弾むようなナットの歌い方から、その楽しさが伝わってくるようです。
男性ジャズボーカル4:ジョニー・ハートマン
John Coltrane & Johnny Hartman
全編、品のある漆黒のバラードが続きますが、良く響くバリトンヴォイスの特徴を特に活かしたのが、一曲目「ゼイ・セイ・イッツ・ワンダフル」です。
この曲は、アメリカで国民的な音楽家として知られるアーヴィング・バーリンの作品。1946年のブロードウェイミュージカルの「アニーよ銃をとれ」のために書かれたものです。恋に落ちるときの気持ちを歌った小曲ですが、ジョニーの歌唱は、それを味わい深いものにしています。
また、サックスで絶妙なオブリガートをつけるジョン・コルトレーンが、さらに曲に彩りを加え、二人の邂逅がジャズの歴史において、重要なものだということを証明しています。
この曲のほかにも、聴きどころの多い二人の一度だけの協演盤。何度聴いても、ため息が出るほどに凛とした品格を保っています。
男性ジャズボーカル5:ルイ・アームストロング
ハロー・ドーリー!
世界的に大ブームとなっていたビートルズは、この年2月に初渡米し、ついに4月4日にはチャートを第一位の「キャント・バイ・ミー・ナウ」から上位五位までを独占していました。その全てを飲みこむ濁流のようなビートルズブームをせき止めたのが、なんと63歳のだみ声のジャズシンガー、ルイ・アームストロングだったのです。
この曲「ハロー・ドーリー」は、1964年5月9日付けで全米NO1を記録し、その年の2月から三ヶ月間一位を独占していたビートルズの連続一位の記録をストップさせるという快挙を成し遂げました。
ルイ本人の歌や演奏は勿論、バンジョーなどが楽しい伝統的なニューオリンズスタイルに基づいたこの曲は、聴くものを楽しい気分に変える不思議な力に満ちています。
それにしても、若者の代表のようなビートルズに土をつけたのが、大人の代表、しかもジャズミュージシャンの、ルイの決して美声とは言えない歌声だったというのは痛快です。
当時のアメリカの音楽シーンがあらゆる世代に支持されていたという健全性をしめすエピソードと言えます。
男性ジャズボーカル6:ジョー・ウィリアムス
Prez & Joe
70年代に入り、フリージャズが後退し、ようやく不遇をかこっていたメインストリームのジャズメンにも日が当たるようになってきます。そんな中、往年のカウント・ベイシー楽団の名歌手ジョー・ウィリアムスによる、この楽しいアルバムが出ました。
サックス奏者のデイヴ・ペル率いる「プレズコンファレンス」による第二弾としてでたこのアルバムは、ジョー・ウィリアムスをフィーチャーし、ヴォーカルアルバムとしても第一級の出来となりました。
プレズコンファレンスとは、スウィング時代のイノベーター、サックス奏者のレスター・ヤングのアドリブパートをサックスグループで再現しようというバンドです。同じ試みとしては、これより先にチャーリー・パーカーのソロを再現する「スーパーサックス」というバンドがありました。プレズコンファレンスは言わばその柳の下を狙ったものですが、大人の洒落っ気たっぷりの楽しさがあります。そしてメインを張るヴォーカルのジョー・ウィリアムスは快調そのものです。
レスターの名演で有名な曲、「フェン・ユー・スマイリング」は特にハッピーなものになっています。ジョーの歌は、癖がなく、万人受けする声で、大編成のビッグバンドを向こうにまわして歌っていただけに声量も十分。歌うことが楽しくて仕方がないといった雰囲気が、このアルバムを何回でも聴きたいと思わせる、ジョーの魅力となっています。
男性ジャズボーカル7:ジェイミー・カラム
Twenty Something
そんな中、イギリスから登場したジェイミー・カラムは個性的で、作品を絞ってみれば、まさに現代における新しいジャズヴォーカルの可能性のように思えます。
オリジナルの曲も多く歌うジェイミーですが、ジャズファンにとって気になるのは、やはりスタンダードを歌ったものです。ここでの「ホワット・ア・ディファレンス・ア・デイ・メイド」では、ジャケットに見られる少年っぽいジェイミーのルックスからは想像もできないような渋い独特の声による節回しで、初めて聴くものに驚きさえ与えます。
その意外性やギャップにつられて聴いていくうちに、ますます深い表現に二度驚くという、一筋縄ではいかないミステリアスな部分を持つた、楽しみなヴォーカルと言えます。
ここには、収録されていませんが、クリント・イーストウッド監督主演の名作映画「グラン・トリノ」のエンディングテーマ「グラン・トリノ」もジェレミーの代表作。映画のショッキングなラストシーンとともに、強烈に印象に残る歌です。これからもジェイミー同様オリジナリティあふれる男性ジャズヴォーカルの出現に期待したいところです。
さあ、男性ジャズヴォーカルの世界はいかがでしたか?今回ご紹介できなかった中にも、まだまだたくさんのヴォーカル名盤があります。そちらについては、いずれ順を追ってご紹介させていただきますね。華麗なる女性ヴォーカルは「女性ジャズヴォーカル年代順おすすめ7選」にてご紹介しておりますので、ぜひご覧ください。
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