世界遺産/ヨーロッパの世界遺産

メテオラ/ギリシア(3ページ目)

大地から突き出す地上400mの奇岩群の頂に、宙に浮かぶ=メテオラの修道院群がたたずんでいる。修道士たちが神を見、命がけで造り上げたメテオラは、世界に35件しかない複合遺産のひとつとして世界遺産登録されている。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

メテオラの歴史1. 修道士の隠れ家として

大地から突き出した高さ400m近い奇岩。この上に修道院があることを誰が予想できよう

大地から突き出した高さ400m近い奇岩。この上に修道院があることを誰が予想できよう

日本の修験者や中国の道士、世界各国のシャーマンが厳しい自然で修行を積むように、修道院ができた中世以降、修道士たちは特異な自然を見つけては自然の中で神や自分と対面し、より神に近づこうと厳しい修行を行った。

メタモルフォシス修道院:メタモルフォシス=変容とは、キリストが弟子たちと山に登り、天使たちと会話を交わした際、キリストの身体が光り出して変容したことを示す

メタモルフォシス修道院。メタモルフォシス=変容とは、キリストが弟子たちと山に登り、天使たちと会話を交わした際、キリストの身体が光り出して変容したことを示す

9世紀には修道士たちはこの地を発見し、メテオラの岩々の中腹にある多数の洞穴を利用して修行をはじめたという。はじめは個々人が修行を行う場所だったが、11世紀頃から人々が集まって集会所を作り、修道院的な活動がはじまる。

東ローマ帝国の勢力が弱まって1340年にセルビア王国がこの地を支配すると、聖山アトス(世界遺産「アトス山」)の修道士たちは戦火を避けるためにメテオラに集まるようになった。1356年、アサナシオスは同志十数名と奇岩の頂上に、修道院の建設をはじめる。1388年にこのメタモルフォシス修道院が完成し、断崖に囲まれた空中に位置することから「宙に浮かぶ=メテオラ」修道院と呼ばれるようになる。

 

メテオラの歴史2. 生きている聖地メテオラ

あああ

下から見上げたメタモルフォシス修道院。この修道院はメガロ・メテオロン修道院、大メテオロン修道院、キリスト変容教会などとも訳される

同じ頃、セルビア王国の王子ヨアサフは王位を捨ててアサナシオスのもとで修道士の道に入る。

メタモルフォシス修道院では、かつて修道士たちは縄のハシゴや巻きあげ機を使っていたが、現在はこのロープウェイで物資を運んでいる

メタモルフォシス修道院では、かつて修道士たちは縄のハシゴや巻きあげ機を使っていたが、現在はこのロープウェイで物資を運んでいる

イスラム教国であるオスマントルコがこの地を支配すると一時すたれるが、トルコが他宗教に寛容だったため、ヨアサフたちはふたたびこの地に集まり、15世紀には数々の修道院が建てられて、メテオラは一大修道院群を形成する聖地となる。

一時メテオラは衰退するが、16世紀に再興され、多くの修道院が改築され、修道士たちがふたたび集まりだし、修行の場として栄えた。結局24建てられた修道院のうち、現在残っているのは8つ。うち6つの修道院がいまも活動を続けている。

メテオラは単なる観光地ではなく、現在もギリシア正教徒たちが修行を行う生きている聖地なのだ。
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