その穴は不思議な絵本の世界への入り口だ
みなさんは、ミヒャエル.・エンデの『はてしない物語』を、お読みになったことがありますか? 『はてしない物語』は、現実の世界に生きる主人公が、いつのまにか本の中の世界に引き込まれ、その崩壊を救うファンタジーです。本好きな子どもなら、誰でも1度は行ってみたいと願う「本の中の世界」。そこを旅するこの物語の虜になった方も多いと思います。今回ご紹介する『それから どうなるの?』もまた、『はてしない物語』のように、絵本に開けられた穴を通して、いつのまにかムーミンの住む絵本の世界に読者を引き込む不思議な作品なのです。
ムーミンの絵本第1作『それから どうなるの?』
鮮やかなオレンジ色の表紙に大きく開けられた丸い穴。施されたしかけにワクワクしながらページをめくれば、針葉樹林でしょうか、薄暗いフィンランドの森をムーミンが1人であるいています。ちょっぴり不気味なその雰囲気は、子どもたちをドキドキさせるかもしれません。でも、心配はいりませんよ。切り抜かれたページの向こうには、明るく美しい色の「何か」が見えています。あれはなんでしょう? そしてムーミンは、それからどうなるの?こんな風に、不思議な穴を1つ抜けるたびに少しずつ進展するお話は、行方不明(?)になったちびのミイを捜して、ムーミンとミムラねえさんが東奔西走する愉快な冒険譚です。ニョロニョロやヘムレンさん、そしてもちろんムーミンママなど、個性豊かなムーミン谷の仲間たちも次々に登場して、お話を盛り上げ、読者を楽しませてくれます。
でも、読者はただ「受け身」でこの絵本を読むことはできません。というのも、この絵本の肝である切り抜きは、読者である私たちが切り取って、ムーミンたちの通り道を作ってあげなければならないのです!! 絵本を読者自身が完成させるなんて、こんな素敵な趣向があるでしょうか。
ただ、ひとつだけ残念なのは、原作では裏表紙にあけられていたと思われる「絵本世界からの出口」がふさがれてしまっていること。とても小さな穴だけれど、その穴が、文字通り、現実の世界と絵本の世界をつないで、子どもたちの想像力を大きく育ててくれると思うのですが、なぜふさがれてしまったのでしょうか。本当に残念で悔やまれます。
【書籍DATA】
トーベ=ヤンソン:作/絵 渡部翠:訳
参考価格:1680円
出版社:講談社
推奨年齢:4歳くらいから
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※参考
11月 アートな絵本を自由に楽しむ鑑賞ガイドにて『それからどうなるの?』を紹介しています。