読まずにはいられない情感たっぷりの絵本
『きりのなかのサーカス』
日本では絵本作家として有名なブルーノ・ムナーリですが、実はグラフィックデザイン・彫刻・プロダクトデザインなど、様々な分野で活躍したアーティストです。そのムナーリが、視覚イメージの連続によって物語を構成した作品が、『きりのなかのサーカス』です。この作品は、一見すると大人向きに描かれた絵本のように見えますが、彼は、子どもたちに霧のイメージを伝えるために、アッと驚く仕掛けを用意しています。そのユニークな発想と情感たっぷりの奥行きのある物語を、ぜひ親子一緒にお楽しみください。
それはみな、夢の中の出来事ですか?
本の扉を開くと、1羽の鳥がいる。そっとページをめくり、その鳥のシルエットをもう1度確認する。すると…… やはり間違いない。鳥は霧の中を飛んでいる。なぜそう思うかって? なぜなら、その鳥は、本当に霧の中に浮かび上がるように、透けるように薄く繊細なトレーシングペーパーに描かれているのですから。そのトレーシングペーパーは幾重にも重なり、そこだけは、まるで夜のように色を持たない絵が描かれ、谷川俊太郎の研ぎ澄まされた言葉が綴られます。それらが、深い霧に包まれた世界を見事に表現し、その繊細さにページをめくる手が次第にゆっくりとなっていくほどです。
ところが、霧の中にサーカスが姿を現わすと、物語は静から動へ一変し、楽しく賑やかなサーカスが繰り広げられます。次々に登場するサーカスの主役たちが、鮮やかな色紙に描かれ、各ページに用意されたくり抜きの仕掛けも楽しく、サーカスの音楽や喧騒までもが聞こえてきそうです。
やがて、サーカスが終わり、人々が帰路に着くころには、街の公園は再び霧に包まれ、静けさを取り戻してゆきます。静かに静かに、再び1羽の鳥と共にエンディングを迎えるストーリー。そんな幻想的なお話を読み終えて本を閉じれば、「霧もサーカスも夢の中の出来事だったのかもしれない……」などと、不思議な読後感が余韻を残します。
【書籍DATA】
ブルーノ・ムナリ:作 谷川俊太郎:訳
価格:2415円
出版社:フレーベル館
推奨年齢:4歳くらいから
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※参考
11月 アートな絵本を自由に楽しむ鑑賞ガイドにて『きりのなかのサーカス』を紹介しています。