インフルエンザの歴史と語源……古くはヒポクラテスも記録
東洋医学の視点からインフルエンザのしくみと効果的な予防法を考えてみましょう
インフルエンザが歴史に初めて姿を表すのは紀元前412年のヒポクラテスによる記録のなかであるとされています。さらに16世紀にはすでにインフルエンザという名で呼ばれていたことが分かっています。もともとイタリア語のInfluence(影響)という言葉がその語源となっているのですが、当時インフルエンザの原因が解明されておらず、星座の配列による影響ではないかと考えられていたからと言われています。
わが国でも984年頃書かれた最古の医学書『医心方(いしんぽう)』に「しはぶき」という名前で登場しており、平安時代に成立した歴史物語『大鏡』や『増鏡』のなかではインフルエンザの流行をうかがわせる記載があります。また江戸時代には一般的に「はやりかぜ」と呼ばれ、「谷風」「琉球風」「アメリカ風」など流行した時期の世相を反映した呼び名で呼ばれていたようです。
東洋医学におけるインフルエンザの考え方
さて、それでは次に東洋医学におけるインフルエンザについて考えてみましょう。東洋医学では、「生気(せいき)」と「病邪(びょうじゃ)」の戦いに生気が負けてしまい、身体が病邪に侵入されている状態を病気と呼びます。病気の原因となる病邪には
- 風邪(ふうじゃ)
- 寒邪(かんじゃ)
- 暑邪(しょじゃ)
- 湿邪(しつじゃ)
- 燥邪(そうじゃ)
- 火邪(かじゃ)
このうち風邪(ふうじゃ)は現代日本で「かぜ」と呼ばれ特に身近なものですが、これは風の持つ高く舞う性質により鼻や頭、喉など身体の高い位置に症状がでることが特徴となっています。
この風邪(ふうじゃ)はかぜの原因となるだけあって一年中現れやすいという性質も持っているため、他の様々な邪気といっしょになって身体に侵入してくることがあります。『素問』のなかにも「風邪は百病の長」と述べられているほどです。
風邪(ふうじゃ)が特に組み合わさることが多いのが寒邪、そして暑邪と火邪。寒邪と合わさり「風寒(ふうかん)」、症状が始まる時に背中がゾクゾク寒い感じがし、水っぽい鼻水がでるなどします。
一方、風邪が暑邪、火邪と合わさることで「風熱(ふうねつ)」となり、これが身体に侵入することで高熱が出て全身が熱くなり、あらゆる関節や筋の痛む、喉の渇きと激しい痛みがあるなどの症状が発生することがこちらの特徴となります。東洋医学の観点では、身体の中に風熱が侵入した状態こそがインフルエンザであると考えられます。
漢方・経絡・ツボによるインフルエンザ予防法
東洋医学の世界観では首の付け根にある「大椎」を刺激することでインフルエンザ予防になると考えられています
このようにインフルエンザに対し東洋医学による治療手段の有効性が注目されるなかで、経絡やツボを用いてインフルエンザを予防する方法や、もしかかってしまった場合に少しでも症状を和らげる方法について考えてみましょう。
まず風邪が暑邪、火邪と組み合わさり体内に侵入することで風熱すなわちインフルエンザに罹患することはお伝えしましたが、東洋医学の視点ではこうした場合に何よりも百病の長である風邪に対抗する身体の防衛機能である陽気(ようき)を充実させることが重要だと考えます。陽気とは衛気(えき)とも言い、食物から作られる身体を流れるエネルギーの一つであり、体表の近くを流れ体温を保持したり皮膚を収縮弛緩するなどして邪気から身体を守る働きをしています。
インフルエンザ予防に役立つツボ「大椎(だいつい)」
身体の防衛機能であるこの陽気をコントロールしているとされるツボを「大椎(だいつい)」と言います。これは手足を流れる陽気がこの大椎で全て交わると考えられているからです。大椎は第七頚椎と第一胸椎の棘突起の間にあります。首を前に傾けた時に首の付け根に飛び出る椎骨、それが第七頚椎棘突起でありその真下のくぼみに大椎が存在しています。
東洋医学的な治療方法ではこの部分をやさしく押すもしくはさするように揉むことで陽の気を補い、また暑邪と火邪により身体にこもった熱を発散することができると考えられています。つまり、この大椎にやさしくセルフマッサージを行うことでインフルエンザの予防と症状緩和の両方に対し効果が期待できるということなのです。
東洋医学の視点では、インフルエンザそのものよりも現在の身体の状態から判断して予防法や治療法を考えます。今回紹介した大椎というツボがインフルエンザの予防や症状緩和のためにあるツボというわけではなく、身体の疲れやいわゆる風邪症候群など比較的広い症状に対しても有効であると思われますので 、ぜひお試しください。