キャストと演出の妙
スコットを演じたマット・デイモンはハマり役だったと思います。「これは惚れるよなぁ」というセクシーさと、田舎っぽい純朴さを兼ね備え、説得力がありました。(実は彼がゲイを演じるのは初めてではなく、『リプリー』以来なのですが、以前の不気味な感じではなく、「ストレート」なゲイでした)しかしやはり何と言っても、『氷の微笑』でシャロン・ストーン相手にマッチョな男を演じたあのマイケル・ダグラスが、ダミ声で「豪華な年老いたゲイ(オバサン)」を怪演していたのがスゴいです。末期ガンから復帰して演じたこの役には、並々ならぬ思い入れがあったんでしょうね。気迫が感じられます。(ちなみにマイケル・ダグラスは1982年のゲイ映画『Making Love』への出演をオファーされながら断ったことがあります。時代は変わりましたね~)
それから、スコットの前の彼氏・ビリーを演じていたのが「glee」でボーカルアドレナリンの新任コーチを演じていたシャイアン・ジャクソン(オープンリー・ゲイの方です)、そして用心棒役で登場するのが「glee」でカートのお父さん役だったマイク・オマリーだったりして、「glee」に縁のあるキャスティングだったりもします。
文句なしに適材適所なキャスティングだったのですが、加えて演出の妙も光っていました。ソダーバーグ監督は、リベラーチェの金に糸目をつけないゴージャスさや、整形のくだり(美容外科医の引きつったような顔がスゴい)など、ワイドショーや女性週刊誌が取り上げそうな素材をしっかり見せると同時に、笑えるシーンもふんだんに盛り込んだエンタメ作品に仕上げていました。
笑えるシーンその1:朝帰りしたスコットに父親が「お前はまたサンフランシスコの男と…」と言うと、スコットは「違うよ、地元のウェストハリウッドだよ」と言い返し、父親と(再婚後の)母親が「やれやれ」といった感じで目を見合わせる……(ウェストハリウッドは有名なゲイタウン)
笑えるシーンその2:二人の関係が終わりに近づいた頃、ピチピチの若いイケメンがリベラーチェの楽屋に遊びに来たのですが、それを苦々しげに見るスコットの表情は、スコットの前にリベラーチェとつきあっていたビリーにそっくりだった……
笑えるシーンその3:リベラーチェに捨てられたスコットが友達の家でTVを見ていて、アカデミー賞授賞式のリベラーチェのステージが放送されるのですが、そのタイトルが「Sincerely yours」だったという皮肉。(同じゲイ・アーティストの恋の終わりを描いた映画でも、フランシス・ベーコンの『愛の悪魔』だと、キャリアの頂点とも言うべきパリでの大回顧展のまさに当日、恋人のジョージが自殺するという最悪の悲劇が描かれています……それとは対照的なテイストでした)
総じて、コメディタッチであるがゆえに、深刻になり過ぎず、ゲイが観ても不快に感じることなく、誰でも楽しめる作品になっていると思いました(キスシーンはありますが、ロコツな性描写はなく、未成年でもOKだと思います。一般的なドラマと同じです)
また、製作陣はほぼノンケの方ばかりなのに、(昔とは違って)ステレオタイプなゲイ像で笑いをとるわけでもなく、徹底してゲイ寄りな作品(笑いのツボさえもゲイテイスト)になっていて、これって実はスゴいことかも、と思いました。
ちなみに、映画の最後に「マーヴィン・ハムリッシュに捧ぐ」というテロップが入りますが、この映画は、『コーラスライン』や『追憶』(バーブラが歌う主題歌「The Way We Were」など)の音楽を手がけたマーヴィン・ハムリッシュが最後に音楽を手がけた作品となりました。
というわけで、『恋するリベラーチェ』をぜひ、ご覧ください。