男の靴・スニーカー/シューケア・手入れ

アルカリ電解水はクリーナーとして使えるのか?(2ページ目)

台所回りのお掃除に近頃活用されるケースが多いアルカリ電解水。これを紳士靴のクリーナー代わりに使えるか実験してみました。結果を予想通りと言うべきか予想外と言うべきか……

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

「汚れ」以上に「色」が落ちる!

使用前・使用後

向かって左側(右足)はアルカリ電解水を用いる前、向かって右側(左足)は用いた後です。この靴は自作アンティーク仕上げで色々な靴クリームを何度も塗り重ねていたものですが、それらが相当取れてしまっているのがお解りいただけるかと思います。

まず、「アルカリ電解水」とは、非常に簡単に申せば水に塩みたいなものを混ぜた上で電気分解したものです。多くの場合phが11.0以上ある、その名に恥じないバリバリの強アルカリ性ですので、極論すると水と言うよりは「水酸化ナトリウム(=苛性ソーダ)水溶液」と同種のものであるとお考えいただいて構いません。これが汚れ、特に油汚れの中にある脂質と反応するのを通じて一種の界面活性剤を生成し(このプロセスを「鹸化」と言い、文字通り石鹸作りそのものの過程です)、それが汚れを落とす仕掛けになっています。要は汚れからクリーナーを作った上で、それ自身を除去してしまう訳です。

学校の理科実験を思い出して欲しいのですが、何せ実質的には「水酸化ナトリウム水溶液」ですので、このアルカリ電解水を直接指で触れるとヌルヌルしますし、アッパーの革に塗っても同様に微妙なヌメリを覚えます。これは上述した「鹸化」により、塗られていた靴クリームの類はもとより指の皮膚やアッパーの革そのものが融けている、何よりもの証拠。どおりで「革には使えません」と書かれてある筈です。おおコワ!

それでも恐る恐る、通常のスムースレザーや型押し革、それにガラス革など何種類かの牛革のアッパーに「実験」してみました。するといずれの場合も、はじめはほとんど反応しないものの、汚れや古い靴クリームが次第に、しかし加速度的にバッサリ落ちて行くと共に、革の製造の際に用いた染料の類までうっすらとではありますが取り除かれてしまったのです。そればかりでなく、通常のクリーナーでは落とし難い水ジミの類も、完璧とは言えないまでも多少は薄くなりました。

また乾いた後には、アッパーの革の表面にはヌメリこそ消えますが、その代りに独特のツルっとした感触が出て来ました。恐らく革の表面若しくは塗装面が若干融けたのを通じ、それが均質に慣らされたのでしょう。その効果なのか、通常のクリーナーを用いた時とは異なり、表面の艶がそれほど消えないのも大きな特徴です。と言うことは……

例えばアンティーク仕上げに失敗したり長い間様々な色の靴クリームを塗りたくっていた靴を、アッパーの革の「地の色」に回復させたい時ならば、このアルカリ電解水は有効に活用できるのではないでしょうか。ゴシゴシ擦るのは禁物で、コットンパフに多量に浸み込ませ革にくぐらせるように何回にも分けて用いる等、使い方のコツはクリーナーのそれと同じで大丈夫。流石に表面が極僅かに融けますので通常時のクリーナー代わりとしては効果が強過ぎ、お勧め致しません。しかし、このようなピンポイントな用途で使うのであれば、それこそ色味が気に入らずに履かなくなっていた靴を再活用できるきっかけにはなるかもしれませんよ!

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