大ヒットミュージカルから意欲溢れるオリジナル・ミュージカル、来日公演まで
俄かに寒さが厳しくなってきたこの頃ですが、劇場街ではクリスマス、そしてお正月にむけてミュージカルが目白押しです。魅力的な作品群の中から、特に気になる舞台をガイド・松島がピックアップし、「見どころ」とともにご紹介します。また、開幕後は随時、「観劇ミニ・レポート」を追記して行きますので、どうぞお楽しみに!【今回ご紹介する舞台】
※11月開幕
『ジャック・ザ・リッパー』→ミニ・レポ追記済み
『無頼漢(ならずもの)』→ミニ・レポ追記済み
※12月開幕
『ママ・アイ・ウォント・トゥー・シング』→ミニ・レポ追記済み
『マンマ・ミーア!』→ミニ・レポ追記済み
『交響劇 船に乗れ!』→ミニ・レポ追記済み
『On the stage~クランク・イン~』→ミニ・レポ追記済み
『プッチーニのラ・ボエーム』→ミニ・レポ追記済み
『オペラ座の怪人~ケン・ヒル版~』→ミニ・レポ追記済み
『華麗なるミュージカル クリスマスコンサート2013』→ミニ・レポ追記済み
【AllAboutミュージカルで特集掲載した舞台】
『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(11月1~17日=天王洲銀河劇場)
→出演・柿澤勇人さんのインタビューを「気になる新星」で掲載
『チェス・イン・コンサート』(12月12~15日=東京国際フォーラムホールC、12月20~22日=梅田芸術劇場メインホール)
→出演・マテ・カマラスさんのインタビューと観劇レポートを「Star Talk」で掲載
『モンテ・クリスト伯』(12月7~29日=日生劇場)
→出演・石丸幹二さんのインタビューと観劇レポートを「Star Talk」で掲載
『ジャック・ザ・リッパー』
(11月4~30日=KAAT神奈川芸術劇場)『ジャック・ザ・リッパー』
19世紀末ロンドンの未解決事件「切り裂きジャック」を題材としたチェコ製ミュージカルの、韓国版。昨年初来日し、4万人を動員するヒット作となりました。爆発的な歌唱、演技に定評のある韓国人俳優の特質が生かされた、歌い上げ系のナンバー満載の作品。全35回公演に対し、ダニエル役がK-POPスター含め6人といった具合に、ことさら賑やかなキャスティングですが、ミュージカルファンとしては先日来日した『兄弟は勇敢だった?!』で好演したチ・チャンウクさん(ダニエル役)、新生・日本版『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャン役でお馴染みのキム・ジュンヒョンさん(アンダーソン役)に、注目が集まります。
【観劇ミニ・レポ】
物語の設定こそロンドンですが、仕上がりはまごうことなく韓国ミュージカル!事件の伏線となる恋が芽生える序盤から、急転直下の悲劇、そして驚愕の結末まで、演出はテンポよく、俳優陣もエネルギッシュに演じ切ります。アグレッシブな歌唱が繰り広げられる中で、捜査官アンダーソンの昔の恋人ポリー役ソ・ジヨンが、しみじみ、かつ厭世感を漂わせて昔を振り返るナンバーは出色。言葉を大切に歌うことの良さを、言語の違いを超えて感じさせます。もちろん、男優陣も好演。ダニエルをこの日演じたチ・チャンウクは、その清廉で初々しい持ち味が序盤に生き、それだけに後半、胸えぐるような悲恋に飲み込まれて行くさまがリアル。麻薬に溺れるアンダーソン、悪魔的な存在をロックスター的な容姿とナンバーで表現するジャック、金の亡者の新聞記者と、登場人物はそれぞれ、しどころ(演じ甲斐のある箇所)十分です。誰が主人公とは言い切れず、俳優の演技次第で印象もかなり変わりうるだけに、ぜひほかの役者でも観てみたい!という中毒性のある作品です。
『無頼漢(ならずもの)』
(11月21日~12月1日=豊島公会堂)『無頼漢(ならずもの)』
6月の舞台『アトミック☆ストーム』で、原発をミュージカルで真正面から取り上げた流山児☆事務所の新作。今回は歌舞伎『天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)』をもとに寺山修司が70年の映画『無頼漢』のために書いた脚本を、さらに新進劇作家の中津留章仁がアレンジ。三味線プレーヤーの上妻宏光が、音楽を担当します。『天衣~』の舞台である幕末の不穏な空気、寺山が脚本を書いた当時の学生運動の残り香、そして再び「抑圧の時代」を迎えつつある“今”……。そのすべてを内包する、ダイナミックな“不服従の人間ドラマ”が期待できそうです。
【観劇ミニ・レポ】
築61年のレトロな会場、豊島公会堂には提灯や幟が並び、ちょっとしたタイムスリップ気分。決して座り心地がいいとは言えず、舞台も通常の劇場より高く、首が疲れる……なんていうことは、ドラマに引き込まれるうち、どうでもよくなってきます。大筋は歌舞伎版と同じで、悪事が露見した河内山の台詞では、演じる山本亨さんが歌舞伎とはまた違った「名調子」を聞かせます。その一方では、「権力」を代表する水野忠邦に、政治を行う側の「正義」を語らせ、民衆の「道理」と対立させている点に“今”ならではの説得力が。また、寺山修司の作品にしばしば登場する「母子」「仲間外れ」モチーフが本作にも挿入され、独特の郷愁とアクの強さを添えます。上妻さんによる歌は数曲ながら、耳なじみがよく、今後ぜひ本格的ミュージカルを手掛けて欲しいところ。抵抗の物語はたいてい民衆が打ちのめされて終わりますが、今回は「芝居」というメディアに僅かな希望が残される結末。片岡直次郎役の五島三四郎さんを始め、出演者たちも溌剌として、熱いものがこみ上げてくる舞台です。
『ママ・アイ・ウォント・トゥー・シング』
(12月4~8日=東急シアターオーブ、12月10~13日=大阪・森ノ宮ピロティホール、12月16日~2014年1月5日=アミューズ・ミュージカルシアター)『ママ・アイ・ウォント・トゥー・シング』中央・ノエル・ヒギンセン
60年代のR&Bシンガー、ドリス・トロイのサクセスストーリーを描き、83年にNY・ハーレムで誕生したゴスペル・ミュージカル。作品の30周年を記念し、19年ぶりに来日が実現しました。厳格な母と対立しながら歌手デビューする主人公を今回演じるのは、ドリスの姪であるノエル・ヒギンソン。またゴスペル・コーラスの仲間たちを演じるのは、ドリスの妹で、本作の作者でもあるヴァイ・ヒギンセンが創設した、音楽教育プログラム「Gospel For Teens(ゴスペル・フォー・ティーンズ)」で選り抜かれた若者たちです。のびやかで迫力満点の彼らのコーラスは必聴!
【観劇ミニ・レポ】
ラジオのDJが語るドリス・トロイの成功物語に沿って、次々に再現されてゆくエピソードの数々。クライマックスに向けて緻密に構築されたブロードウェイ・ミュージカルと比べると、ややシンプルな作りではありますが、この「ゆるい空気」こそが本作の魅力。リラックスしながら、「本物」の歌声が楽しめます。ゴスペル・コーラスの喜びと躍動感溢れるハーモニー、そしてドリスを支えるシスター・キャリー役サンドラ・ハフの、ジェイムズ・ブラウンにも匹敵する(?!)パワフルな歌唱は圧巻!成功したドリスが後年、故郷に戻って福祉活動に力を入れたことも語られ、教会育ちというルーツを忘れなかった女性の一代記としても、後味爽やかな舞台です。
『マンマ・ミーア!』
(12月12日~1月31日=四季劇場[秋])『マンマ・ミーア!』撮影:阿部章仁
既存のポップスを使った、いわゆる「ジュークボックス・ミュージカル」の中でも最も成功した作品。ギリシャの孤島を舞台に、シングルマザー、ドナとその娘ソフィー、そして娘の父親らしき男たちとドナの親友たちの大騒動が、笑いと涙を交えて描かれます。秀逸なのはその構成!ポップグループ、アバの「ダンシング・クイーン」「チキチータ」など往年の名曲が、最初からこのミュージカルのために書かれたのでは?と思えるほど、違和感なく物語に溶け込んでいます。ドタバタシーンももちろん楽しいのですが、劇団四季版の良さは、登場人物それぞれの苦悩をしっかり浮彫りにしている点でしょう。ドナが娘の嫁入りを前に歌う「手をすり抜けて」などでは、思いがけず涙を誘われ、慌ててバッグのハンカチを探している観客の姿も。
【観劇ミニ・レポ】
この日ドナ、サムを演じたのは樋口麻美さん、阿久津陽一郎さん。これまで数多くコンビを組み、パンチの効いた歌声も共通する二人が歌う「SOS」のハモり部分は絶妙です。ドナの親友ターニャが、年下男子を手玉にとるセクシーなナンバー「ママは知ってるの?」を、様式美的な美しい動きでお下品の一歩手前にとどめる八重沢真美さんも、さすがベテラン。とかく母親の物語に思われがちな本作ですが、娘ソフィを『ウィキッド』『アイーダ』等で力強いヒロインを演じてきた江畑晶慧さんが演じることで、二世代の物語としての骨格が鮮やかに浮かび上がりました。彼女が幕切れに歌う「I have a dream」には人生への期待感が満ち満ちていて、最後に現れる月が何と美しいことか。今、一番ハッピーになれるミュージカルです!
次ページで『交響劇 船に乗れ!』以降の作品をご紹介します!