ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2013年11~12月の注目! ミュージカル(2ページ目)

クリスマス、お正月にむけて華やぐミュージカル界。今回は『ジャック・ザ・リッパー』『無頼漢(ならずもの)』『ママ・アイ・ウォント・トゥー・シング』『マンマ・ミーア!』『交響劇 船に乗れ!』『On the stage~クランク・イン~』『プッチーニのラ・ボエーム』『オペラ座の怪人~ケン・ヒル版~』『華麗なるミュージカル クリスマスコンサート2013』をご紹介します!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

交響劇 船に乗れ!

(12月13~21日=東急シアターオーブ)

『船に乗れ!』山崎育三郎さん、福井晶一さん

『船に乗れ!』山崎育三郎さん、福井晶一さん

【見どころ】
チェリストをめざし、クラシック音楽と哲学にあけくれていた主人公・サトルの高校生活を、45歳になったサトルが振り返る……。恋や様々な出会いを経て成長してゆくサトルの青春を、数々の名曲(の描写)を織り交ぜつつ描き、2010年の本屋大賞も受賞した、藤谷治さんの同名小説が舞台化されます。原作で印象的に登場した名曲の数々は、東邦音楽大学管弦楽団のメンバーが舞台上で演奏し、主旋律をキャストが歌いあげます。主人公役の山崎育三郎さん(高校生時)、福井晶一さん(45歳時)らが物語の陰影をどう際立たせるか、期待が膨らみます。
『船に乗れ!』撮影:加藤孝

『船に乗れ!』撮影:加藤孝

【観劇ミニ・レポ】
バッハ、ビバルディ、チャイコフスキー…。物語の中で言及されるクラシックの名曲の数々を、実際に舞台後方のオーケストラ(音大生たちのオケであることが作品に絶妙にマッチ)が演奏するのみならず、登場人物たちが実に自然に、その主旋律に言葉を乗せて歌う。クラシック音楽が重要な意味を持つ小説をどう舞台化するのか、という問いへの答えは、鮮やかで「みごと」の一言に尽きます。(音楽監督は宮川彬良さん、演出は菅野こうめいさん)。主人公サトル(山崎育三郎さん、安定した歌声で名曲を楽しませてくれます)を通して描かれる青春は恋あり、人生に対する悩みあり、無知による他者への残酷な仕打ちあり。音楽高校を舞台にはしていても、きっとどの高校でも見受けられただろう普遍的な情景が、胸を締め付けます。出来事の数々も登場する音楽もカラフルこの上ないのに、アンコールで出演者たちを包む透明な光がとりわけ印象的に映るのは、観る側の心にある「青春」への郷愁ゆえでしょうか。日本製ミュージカルとして、近年にない素晴らしい舞台としてお勧めします。


On the stage~クランク・イン~

(12月16日~25日=東京芸術劇場シアターイースト)

『クランク・イン』別所哲也さん、新妻聖子さん

『クランク・イン』別所哲也さん、新妻聖子さん

【見どころ】
プラネタリウム設計士の恋人に励まされながら、夢を追う女優の卵。あきらめかけた頃、大きなチャンスが。しかし同時に彼女のお腹には小さな命が宿り……。別所哲也、新妻聖子という安定感あるコンビが、二人芝居に挑みます。また今回、音楽の一部を手掛け、舞台上で演奏するのは、故郷英国ではクイーンらと、85年に日本に移住後はTHE BOOMなど数々のアーティストと共演しているキーボード奏者・作曲家のモーガン・フィッシャー。彼の初ミュージカルとしても注目です。上演日程を見る限り、ほっこりあたたかな気持ちに包まれる舞台が予想されますが、さて果たして……?

【観劇ミニ・レポ】
『クランク・イン』別所哲也、新妻聖子

『クランク・イン』別所哲也、新妻聖子

小ぶりの劇場では別所さんの存在感、高音まで軽々伸びる新妻さんの声の魅力が否が応でも際立ちます。展開が予想しやすいシンプルなストーリーではありますが、かたや優しく几帳面、かたやおおざっぱだけど研究熱心という男女のキャラクターを、二人はくっきり、生き生きと演じ、観る側を引き込みます。モーガンさんらによるオリジナル曲も奇をてらわず、互いへの愛や不満を素直に表現する歌詞とメロディ。随処に差し挟まれる、モーガンさんやコーラス「SUITE VOICE」によるクリスマス・ソングも嬉しいご馳走。クリスマス・タイムに上質のエンターテインメントをゆったりと楽しみたい、大人のための舞台です。

プッチーニのラ・ボエーム

(12月19~22日=東京芸術劇場プレイハウス)

イサンゴ・アンサンブル「プッチーニのラ・ボエーム」

イサンゴ・アンサンブル「プッチーニのラ・ボエーム」

【見どころ】
『ラ・ボエーム』といえばミュージカル『RENT』の原型としても有名な名作オペラですが、この公演は南アフリカのカンパニー、イサンゴ・アンサンブル版。プッチーニの音楽はほぼそのままながら、設定は現在の黒人居住地タウンシップに置き換えられ、ジャズやアフリカの伝統音楽も取り入れてアレンジ。マリンバやスティールパン、そしてダンスも登場します。貧困や病気と闘う若者たちのリアルな南アフリカ版『ラ・ボエーム』は、『RENT』ファンなら不思議な既視感を覚えるかも。前作『魔笛』の英国公演ではオリヴィエ賞最優秀リバイバル・ミュージカル賞を受賞したカンパニーの初来日公演としても見逃せません。

【観劇ミニ・レポ】
開演時間になると、既に舞台上にいる出演者たちが揃って正面を向き、キャンドルを手に、ひそやかに歌い始めます。柔らかなマリンバの音を伴ってその声は次第に大きくなりますが、決して声高にならず、優しさと悲しさに包まれている……。舞台が進行してゆくと、この鎮魂の冒頭シーンが本作の象徴であったことに気づかされます。コーラスたちが主人公たちのアリアに手拍子はもちろん、舌を鳴らしたり「ハイヤ、ハイヤ」と合いの手を入れ、歌唱をより立体的に聞かせたり、ちょっとした所作にも足踏みを入れたりと、大胆にアフリカ流アレンジはされていますが、観終わった後にまぎれもなくプッチーニの『ラ・ボエーム』を観たという気にさせるのは、作品が描く「生命の儚さ」が丁寧に表現されていることによるものでしょう。キャンドルのゆらめく灯のような、いつまでも大切にしたい思い出になりうる舞台です。


オペラ座の怪人~ケン・ヒル版~

(12月19~29日=東京国際フォーラム ホールC)

マスクの形もALW版とは異なります。『オペラ座の怪人~ケン・ヒル版』

マスクの形もALW版とは異なります。『オペラ座の怪人~ケン・ヒル版』

【見どころ】
ガストン・ルルーの小説『オペラ座の怪人』を、演出家ケン・ヒルが台本、歌詞を手掛けて舞台化したバージョン。76年の初演時にはオリジナル曲も使っていましたが、84年の改訂で、ガストン・ルルーが書いた時代を再現するため、グノーやヴェルディら、当時すでに書かれていたクラシック曲のみを使うこととし、これがケン・ヒル版第一の見どころ聴きどころとなりました。ロイド=ウェバーが彼自身の『オペラ座の怪人』を書くきっかけともなった本作。今回は長年ファントムを演じてきたピーター・ストレイカーの主演で来日します。

【観劇ミニ・レポ】
物語の設定当時のオペラアリアをそのまま使っているからといって、格調高い世界なのでは……とたじろぐ必要はありません。オペラ座の屋上で恋人たちの会話を怪人が盗み聞きする重要な場面には、厩務員が「小鳥ちゃ~ん、小鳥ちゃ~ん」と餌付けに現れたり(彼はこの後、よせばいいのに怪しい人影に近づいて大変なことに……)、マダム・ジリーが登場して不穏な発言をするたびに「ジャーン」と大仰な効果音が鳴ったり……。いたってシリアスなアンドリュー・ロイド=ウェバー版とは対照的に、こちらは古き良き英国コメディの味ふんぷんのエンタテインメントです。しかし、歌唱場面ではするりと一流のミュージカルに転換するのが本作の魅力で、この日のクリスティーヌ役アンナ・ホーキンスさんは本国ニュージーランドではクラシカル・クロスオーバー歌手として有名だそうですが、オペラ歌手としても十分通用する、強さとテクニックのある美声を惜しげもなく披露。怪人役ピーター・ストレイカーさんも御年71歳というのが信じられないほど、高音を含め声量、表現力のある歌唱です。今回が最後の来日とのこと、伝説のファントムをお見逃しなく!


華麗なるミュージカル クリスマスコンサート2013

(12月22~23日=新国立劇場中劇場)

『華麗なるミュージカルクリスマスコンサート2013』

『華麗なるミュージカルクリスマスコンサート2013』

【見どころ】
日本でのミュージカル文化の盛り上がりを象徴するかのように、最近ぐっと公演数の増えたガラ・コンサート。その中でも本公演は必見の顔ぶれです。米国からは『RENT』のロジャー役で知られるアダム・パスカル。韓国からは『オペラ座の怪人』等で圧倒的な美声を聞かせるヤン・ジュンモ。そして日本からは安蘭けい、石井一孝らミュージカルに欠かせない面々が集結し、前出の作品はもちろん、『ボーイ・フロム・オズ』『蜘蛛女のキス』まで、様々なミュージカルの名曲を歌います。演出・振付は名ダンサーとしても知られる本間憲一さん。クリスマスらしい、華やかで小粋なショーに仕上げてくれそうです。

【観劇ミニ・レポ】
冒頭、『レント』の主題歌「Seasons of Love」を皆が一列に並んで歌っていると、奥からオリジナル・キャストのアダム・パスカルが現れ、合流……というだけでも感激なのに、その第一声は女性音域。まるで天から舞い降りてきたようなハイ・トーン・ヴォイスを軽々と出し、驚かせます。そして2幕フィナーレではヤン・ジュンモが「第九・歓喜の歌」で、マイクが壊れないかと心配になるほどびんびんの美声を披露。この2大サプライズに“サンドイッチ”されたショーは、豪華の一言。日本人キャストの中では特に、風格漂う「All That Jazz」(『シカゴ』)、本役のアダムにひけをとらず力強く相手役を歌った「Elaborate Lives」(『アイーダ』)「Another Day」(『レント』)と、八面六臂の活躍を見せたシルビア・グラブさん、「Think of Me」(『オペラ座の怪人』)等で美しくも芯のあるソプラノを聞かせた木村花代さんの存在感が光りました。しかし本公演の中心人物は何と言ってもアダム。『レント』『アイーダ』『シカゴ』のナンバーを、もう何千回歌ったかわからないほど歌いこんでいることだろうに、変に崩すことなく丁寧に、聴衆の心に届くように歌い、舞台本編を観ているような錯覚すら抱かせてくれました。今回の観客は皆さん、極上のクリスマス・プレゼントを受け取った気分になったことでしょう。
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