流山児★事務所『アトミック☆ストーム』撮影:引地信彦

流山児★事務所『アトミック☆ストーム』撮影:引地信彦

「ミュージカルってこういうもの」。そんな既成概念を打ち破る作品との出会いは、いつも心浮き立つものです。これまでも「猫しか登場しない、筋らしい筋のない」『キャッツ』や「歌のない」『コンタクト』など、様々な作品が人々の常識に挑み、ミュージカルの可能性を広げてきました。今回登場した流山児★事務所の『アトミック☆ストーム』は、これまでに無いテーマという点で画期的。おそらくミュージカル史上初の、「原発」を真正面から扱った作品です。果たして、本作はミュージカルの新たな地平を拓くのでしょうか?

奇想天外なキャラクターたちが混沌と交り合う

暗闇の中で響くピアノの低音。それが大きくなるにつれ、髪振り乱した女性が現れ、主題歌『アトミックストーム』を歌い始めます。「嵐が来るぞぉ……怒りを込めた拳をあげろ……」。こぶしを効かせ、びんびんと響く民謡風の発声。日本製ミュージカルならではの音楽的な心地よさに浸っている間もなく、舞台には大勢の人々が登場し、嵐の訪れを暗示するかのように混沌と交りあい、散っていきます。

不穏な幕開けが過ぎると、そこには体操着姿の小学生と教師の姿が。でも、何かがおかしい。子供たちの無邪気な台詞とは裏腹に、姿かたちはどう見ても立派な大人です。実は彼らは3.11以来数十年間、放射能汚染を恐れて地下で生活。外界にさらされていないため、姿は大人でも内面は素直な子供のままなのです。そんな彼らと先生のやりとりの後、場面は「原子力安全基準委員会」や政治家たちの世界へ。そう、本作は「3.11から数十年後の世界」が舞台のファンタジーなのです。

流山児★事務所『アトミック☆ストーム』撮影:引地信彦

流山児★事務所『アトミック☆ストーム』撮影:引地信彦

ファンタジーだからとばかりに、出てくる人々は誰も彼も破天荒。安全基準委員長はどこかの国の独裁者のように強引かつ滑稽だし、都知事ときたら、歌手でヒップホップブランドのディレクターでもあるという設定。かつて津波に襲われた地方では、銃を片手に生き別れの息子を待つ老女と、ある復讐に燃える男の運命が交錯します。さらに月面上の核廃棄物管理センターでは、チェーホフの『三人姉妹』をパロディ化した三姉妹はじめ、各国から来た人々が脳天気に廃棄作業に励んでいる……。地下と地上と月、それぞれの世界で人々が歌い踊るうち、月ではある異変が。物語は一気に、ホラーじみた展開を始めます。

人気戯曲をミュージカル化した理由

誇張だらけの物語ではありますが、不気味なのは、それが完全に「奇想天外」だとは言い切れない点。その「ありえない」結末も、日々のニュースの断片を繋ぎ合わせれば、「数十年後にはひょっとしたら?」と思えなくもありません。というのも、本作のインスピレーションは86年のチェルノブイリ原発事故。作者の佃典彦さんは21年前、この事故に触発されて同名戯曲を書いたのだそうです。今回のミュージカル版は「状況を俯瞰しようと」これに地下と月のシーンを加筆したものですが、小学生による幕切れの台詞などは、最初からあったのでは?と思われるくらい、びしっと決まっています。

6月2日公演後のアフタートークで、佃さんと演出の中屋敷法仁さんは「初演から20年経ってこのテーマが色あせてない社会って、どうなのかな」と困惑気味に語っていましたが、だからこそ、とばかりに企画の流山児祥さんは「より作品に大衆性が持たせられる、世界に持って行ける」と思い、今回のミュージカル化を考えたのだそうです。

流山児★事務所『アトミック☆ストーム』撮影:引地信彦

流山児★事務所『アトミック☆ストーム』撮影:引地信彦

Eテレ「おかあさんといっしょ」や椎名林檎のアルバム等で知られる斎藤ネコさんの楽曲は、中屋敷さんが作曲にあたってリクエストしたとおり、「ノスタルジックだけど、どこか怖さを秘めた音楽」。舞台上の生バンドがエレキを使っていない、というのもこの作品の隠れたメッセージです。

原発がテーマ、というとその重さにひるんでしまいがちですが、舞台はあくまでからりと明るく、エネルギッシュなエンターテインメント。蛍光色があしらわれた舞台衣装もポップだし、出演者も若手が大半です。日本のミュージカル界に現れた、異色の社会派ミュージカル。もしかして、エイズを扱った『RENT』のような名作に大化けするかも?などと期待しつつ、まずはぜひ、体験してみてください。

*公演情報*
流山児★事務所
『The Musical アトミック☆ストーム 明るい僕らの未来編』
上演中~6月16日=座・高円寺1 http://www.ryuzanji.com



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