黒衣(くろご)の役割とは?

黒衣(くろご)の役割

黒衣(くろご)の役割

『黒衣は見えない……って言われても気になるなぁ』
もはや説明不要なほど、真っ黒な衣装に身を包み、顔まで隠した黒衣(くろご)は有名ですよね。

役割は芝居のサポートで、役者に小道具を渡したり、余計なものを片付けたり、とにかく様々な場面で大いに活躍しています。背景が雪であれば白い衣装になり、海であれば青と変化はあるものの、基本的なスタイルは黒一色です。歌舞伎の世界において「黒は見えない」という「約束」なのです。それにしても、これほど大胆な「約束事」を導入した歌舞伎の知恵には驚かされます。
くろご(みえるけど、みえないそんざい)

黒衣(見えるけど、見えない存在)

そもそも芝居というものは「ウソ」ですよね。ウソではあるけど、そのウソの中から一片の真実を掴みだすのが、芝居の醍醐味でもあると思います。

そのために、多くの演劇が芝居からウソを排除しようとしてきました。特に一時期のリアリズム演劇は、客席に背中を向け、小声でボソボソと喋り、客席から目をそらすといった手法も取り入れていました。けれど、そこにあったのはリアリティでもなんでもない、単に面白みのない舞台でしかなかったよう記憶しています。

つまり、ウソを隠そうとすればするほど、小さなほころびが目立ってしまい、芝居の世界全体がウソくさくなってしまっていたのだと思われます。

けれど、歌舞伎は違いました。元よりウソの世界だと開き直って、ウソはウソとして大胆に表現してしまうことで、舞台にリアリティを持たせることに成功したのです。

舞台の全てはウソであり、観客もまたそれを前提に芝居を見ています。そこで、歌舞伎は人物像、衣装、約束事などをカッチリ固めて、現実世界から切り離してしまいました。舞台という「別世界」を構築することに成功したと言えるでしょう。

これはおとぎ話に例えれば分かりやすいかもしれません。おとぎ話は、どう考えても実際には起こりえない出来事を描いていますが、そこには現実の世界に通じる「真実」が描かれていますね。フィクションであることを受け入れた時にはじめて描かれるリアリティがある。それを江戸の人々は知っていたのではないでしょうか

ただ、いくら「約束」だといわれても、初めて歌舞伎を見る人には無理というもので、どうしてもその動きは目に入ってしまいます。笑い話に、小さな子供が「ねぇねぇ、あんなところに泥棒が出てるのになんで誰も捕まえないの?」と言ったとかいうエピソードもあります。残念ながら、こればかりは「慣れ」る以外に手段はなさそうです。

とはいえ「慣れ」ばかりが大切なのでもありません。黒衣の動きそのものが私たちの目に入らなくなるには、黒衣自身の仕事の良し悪しが大きく影響します。いくら「約束」とはいえ、黒衣は可能な限り目立たないように動くべきです。懸命に身体を小さくし、物陰に隠れ、客席の視線を避けて行動する。そうした努力の積み重ねがあってこそ、私たちは黒衣の存在を忘れることが出来るわけです。

『今日の芝居、黒衣は出てた?』もし、そう感じた日があったなら、それは黒衣の「名演」と言えるのです。


補足(1)
黒衣は専任ではなく、それぞれの役者さんのお弟子さんがつとめることがほとんどです。たいへんな役割ですが、主役級の方たちの芝居を間近に見られるという側面もあり、大事な修行のひとつだそうです。
その証拠に、時に幹部役者が我が子に黒衣を着せて手伝わせるということもあるのです。

補足(2)
国立劇場のマスコットキャラクターが黒衣をモチーフにした「くろごちゃん」です。
リンク先で可愛い姿が確認いただけます。

補足(3)
黒子、と書く書物も多く見かけますが黒衣が正解です。

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