Q:お二人は以前、一緒に作品を発表されていますね。
酒井>ユース・アメリカ・グランプリのガラで、一度デュオを踊っています。島地>ファースト・コンタクトとしては大反省でした(笑)。二週間で作って、結局最後まで手探り状態のままだった。
酒井>あの時はとにかく時間がなくて、すごく慌ててたんです。あと、テクニックを詰め込みすぎちゃって……。
島地>あまりにテンパっていて、それを咀嚼する所までいかなかったというか。
酒井>彼が落ち込んじゃって、もう大変だったんですよ。踊り終わって袖に戻ったら、じっと体育座りしてるんです(笑)。“お疲れさま!”って言っても、“うーん……”って考え込んで、即反省に入ってて(笑)。
島地>お客さんに対して申し訳なくて。カーテンコールで舞台に出ても、ずっと落ち込んだ状態のままでした(笑)。今と比べると、あの時はやっぱりまだ深い場所で出会うところまで出来てなかったような気がします。本番で一緒に踊ったのはあれ一度きりだし、今回はどういう出会いになるのか楽しみにしています。
ユース・アメリカ・グランプリで踊った『PSYCHE』 photo: 瀬戸秀美
Q:今回は共同振付とのことですが、クリエーションはどのように進めていますか?
酒井>基本的な振付は彼がして、バレエのステップだったり、何か変形させてみようという部分は私が意見を出したり……。島地>曲をベースに、まず僕が振りを付ける感じですね。といってもいつも何か予定立てて決めてるわけではなく、音楽を流してみて、体感したことから作っています。バロメーターは彼女で、“やりたくない”というのが如実に出る。ダメ出しがスゴイんです(笑)。
酒井>そう?
島地>態度とか、呼吸にすぐに出るよ。
酒井>ホント? 子供みたいだね(笑)。
島地>だけどそこは、信じていいところなのかなって考えていて。妥協ではないけど、身体が乗る、乗らないという部分も含めてのクリエーションだと思うから。共有する時間があればあるほど、わかるものがあるというか。
酒井>島地くんにとっては、こういう作業は初めてだよね。彼は日頃即興が多いけど、今回はきちんと振りを付けているので。私はディティールをきちんと作って、沢山稽古をして……、っていうスタイルが好きなんです。この作品では私に付き合ってもらってる感じなので、彼にとってはいつもと勝手が違うかも。
島地>違いますね。どちらかというと、僕は声を使い演技をしたり、物を使ったりするのが好きなんですけど……。
酒井>だけど、アルトノイでは二人でしっかりと踊る、オーセンティックなコンテンポラリーをみせたくて。奇をてらうというよりは、二人の空間、二人の波長を大切にした踊りを披露したいと思ってるんです。
島地>ああでもないこうでもないって、毎日同じことを何度も自問してますね。
酒井>でも同じことを繰り返していても、絶対に毎日違う。同じものだけど、どんどん進化するから、決して同じことの繰り返しじゃない。そこで出来上がっていくものはすごく楽しいと思うし、私はそれを彼とやりたいという気持ちがあって……。だけど彼は、同じことをするのがイヤなタイプ。何か新しいもの、何か違うものを探すのが彼の仕事なんですよね。私がやりたいことは、ちょっと職人的。そういう意味で、今回は私が引っ張ってる部分があると思う。
島地>引っ張られてますね(笑)。ただ演出という意味では、結構シュールになると思います。アルトノイならではのファンタジーは欲しいと考えているので。
酒井>彼はシュールなもの、裏をかいたり、ねじれたものが好き。それも取り入れつつ、時には二人で即興してみたり……。実際、作品の中で即興する部分があるので、そこは三公演とも違うものになるはずです。
島地>二人で一緒にやってみて、普段ひとりだったらやらないだろうなっていうことが起きてくるのが面白い。今回は、僕ひとりの作品だったら絶対やらないことが盛りだくさん。それがある種の挑戦ですね。なかにはスキキライもあったりするけど、そういうのも壊していく方がいいんじゃないかなと思っていて。
酒井>ジャンルは違っても、最終的には身体が先生になる。すべてのセンセーションがちゃんとつながって働けているのかを身体に聞くんです。あと、美しさ。歪んだ姿でも、美しく歪んでるのか。意識が使われているのか。そういう所に理想ってやっぱりあるので。
島地>クラシックでもコンテでも、ジャンルに関係なくあるダンスというものの理想だよね。
酒井>ただキレイなだけというのも意味がなくて、魂がどういう風に動いているのか、それが正しく美しいか。二人の空間的なもの、察知してるもののアンテナが正しく働いているかどうかも大切。やっぱりひとりではなく二人であるというのが大事であって、どれだけ共有していてどれだけつながっている中で踊れているかが大切なんだと思います。