将棋/将棋上達のコツ

将棋の駒の利きを覚えて2筋の攻防を理解しよう

今回は駒の利きを考えながら戦っていく基本をガイドします。将棋の初形には、守備面から見た構造的欠陥があったのです。それを理解しておかないと、あっという間に敗れてしまうことも。初心者が中級者以上に手玉に取られてしまうのは、この構造欠陥を知らない場合が多いのです。

有田 英樹

執筆者:有田 英樹

将棋ガイド

<目次>

将棋の駒の利きを覚えよう! 勝負は相手の弱点を攻める

将棋の駒の利き

将棋の駒の利き

勝負に勝つには、相手の守りの弱い場所を見抜くこと。そして、そこを効果的に攻めること。これが鉄則だ。たとえば野球では、徹底した右ねらい(セカンド、ライト方面打ち)がそれに当たる。なぜ、ふいに右ねらいの話を持ち出したのか。それには、訳がある。
 

野球は右ねらいだ

野球は右ねらいだ

野球は右ねらいだ

実はこの私、その昔少年野球をやっていた。当時の監督さんが攻撃のたびに口にする言葉があったのだ。紹介しよう。

「いいか、右ねらいでいけ。野球の守備は、はじめから右が弱いんだ。考えてみろ。2塁と3塁の間にはショートという守りがいるだろ。だから本当なら、1塁と2塁の間にも、もう一人のショートを置くべきだったんだ。けれど、1塁と2塁の間には誰もいない。だから、仕方なしに2塁手がショートの代わりもしているんだ。だから右が弱い。野球は右ねらいだ」

つまり我が監督は、野球の守備には根本的な構造欠陥があると言っているのだ。本職が酒屋さんの監督である。この説が正しいかどうかは、不明だ。しかし、子ども心になるほどと納得したのも事実なのだ。

では、将棋における相手の守りがもっとも弱い地点はどこなのか?それは、その時々の相手の動きによって変わってくるんじゃないか。そう答えたあなたは正解である。将棋は生き物であり、ほんの少し駒を動かしただけで、がらりと様子の変わる万華鏡だ。だが……。実は将棋にも、最初から最弱の箇所が存在していたのだ。つまり、我が監督が喜びそうな構造的な弱点があったのだ。今回は、その点を具体的に研究してみよう。
 

壁の強度を確かめよう

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スタート時の相手陣地

上図がスタート時の相手陣地である。この陣地に入り込まねば、勝利はない。ご覧いただけば、わかるように、その陣地は「歩」という壁で守られている。壁のどこに穴を開ければいいのか。どこの部分の壁がもろいのか。それを分析していこう。 では、まず一番左端、つまり「9三」の地点から見る。
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「9三歩」の防御力は2ポイント

上図のように、この「歩」には「9一の香」と「8一の桂」の2枚のボディガードがついている。つまり守備力は2ポイント。取ったら、取り返しますよと主張しているのだ。ちなみに、将棋用語では、この状態を、「2枚の駒が利いている」というので覚えておいてほしい。
 

最初から2枚の利きがある地点

同様に他の壁の守備力を見ていこう。
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2枚以上の利きがあるのは?

その結果が上図である。最初から2枚以上の駒の利きがあるのは3カ所だ。わかりやすいように、そのマスを黄色に塗っている。このように、最初の陣形から、すでに守りの強いところと弱いところが存在しているのだ。では、さらに分析を続けよう。
 

1手で2枚の利きを得られる地点

現在1ポイントの「7三」の地点も「7二銀」と、たった一枚の駒を動かすだけで、2ポイントに防御アップできる。
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一枚の駒を動かすだけで2ポイント

それが、上図である。黄色の箇所は2ポイント以上だ。これで、最初から2ポイント以上のマスと1手進めるだけで2ポイントになるマスが明らかになってきた。残念ながら白マスのままの壁は1手行っただけでは、2枚の利きで守ることはできないのだ。 さらに分析を進めよう。
 

2手で2枚の利きを得られる地点

では、2手進めたらどうだろうか。
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2手で2枚の利きができるマス

上図のように「6三」「5三」のマスは、たとえば「金」を2枚動かすと防御力が2ポイントになる。こちらの駒が相手陣地に到達するまでに、利きを2枚にできてしまうのだ。さあ、残りは「4三」と「2三」の2つの地点である。まずは「4三」のマスだ。これは、すでにお気づきの方もいるだろう。
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2枚利きのマスが増えてきた

そう、「6三」の地点と同様に「金」を2枚動かせば、利きを2枚にできる。さて、壁の黄色が増えてきた。残りはただ一つ。「2三」のマスだ。
 

守りの構造欠陥「2三」

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守りの構造欠陥「2三」

実はこの「2三」の地点だけは、どのように動かそうとも、2手では、防御ポイントを2点以上にすることができないのだ。あなたも実際に駒を動かし、確かめてもらいたい。角がじゃまをして、2手では利きが2枚になり得ないのだ。つまり、「2三」の地点こそ、まさしく最弱の壁、守る方からすれば、魔の地点とも言えるであろう。では、何手かければ、魔の地点の利きを2枚にできるのだろうか?
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4手もかかる2枚利き

上図がその一例である。この状態ならば「金」と「銀」の2枚利きが確立されている。だが、ここまでに「3四歩」「3三角」「2二銀」「3二金」と4手もかかってしまうのだ。他のすべての壁が最大2手でできた2ポイントの防御力が、倍の4手もかかってしまうのだ。この4手という手数。実は大いなる意味があるのだ。
 

4手あれば到達する「歩」

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4手で到達する攻撃陣


上図をご覧いただこう。実は攻撃陣の「歩」は4手で、魔の地点「2三」に到達するのだ。しかも、この2筋は攻撃の「歩」の援護射撃として「飛」が控えている。つまり、2段攻撃なのだ。一方の守備陣は同じく4手かけて、2ポイントの守備力。つまり、守る側とすれば、最初から緊迫した戦いを余儀なくされているのだ。

逆に言えば、攻撃側とすれば、ここをねらわぬ手はない。相手が受け損なえば、一気に優勢を手にすることができるのだから。我が監督ならば、こう語ることだろう。「将棋も右ねらいだ」。

守る側にはやっかいで、攻めるにはありがたい「2三」。この攻防をしっかり理解していないと、初心者は卒業できない。覚えたての頃、中級者以上を相手にして、あっという間に破れてしまった経験、だれもが持っているだろう。実は、その敗北は、この攻防を知らないがゆえのことだった可能性が高いのだ。
 

覚えておきたい「2筋」の守り方

前述したように攻撃陣は「歩」と「飛」の連携で襲ってくる。だから、「2三」の駒の利きを2枚にしなければ、やられてしまう。もし先手が魔の地点を攻撃してくれば、後手は一気に壊滅してしまう。そう考えたあなたは将棋感覚がすばらしい。だが……、である。だが実は、ここに守り側にとって良い手があったのだ。「歩」と「飛」が攻めてくる道、つまり2筋のどこかの防御を2点にするという発想の転換があれば良いのだ。相手が「2三」に到達する前に2点バリケードを設置するのだ。
 

2手で2点バリヤーを築く方法

そう、実はわずか2手で駒の利きを2枚にする方法があったのだ。さっそくガイドしよう。
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2手で2点バリヤー

それは上図である。なんと、「3四歩」「3三角」と動かすだけで良いのだ。検証してみよう。
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2筋を守る方法

上図をご覧いただきたい。みごとに「2四」の地点に「角」と「歩」という2枚の駒が利いている。つまり、攻撃陣が「歩」と「飛」の2枚で攻めてきても、このバリヤーで守りきれるのだ。相手は魔の地点「2三」に到達することができない。

攻め側からすれば、このようなバリヤーができてしまったら、「歩」と「飛」だけでは攻めきることができない。それでも、強引に行こうとすれば、逆に負けてしまう可能性が高い。いわゆる無理攻めということだ。また、この2筋の攻防の研究は、他の地点でも役に立つ。どんな攻防も「駒の利き」抜きには語れないのだ。
 

2筋の攻防を理解し、いろんな戦法を研究しよう

以上のように、今回は、駒の利きから2筋の攻防をガイドした。これを理解すれば、あなたの「あっという間の敗北」は激減するだろう。いや、「あっという間の勝利」だってあり得るだろう。しかし、そのような将棋は、いずれは、面白味に欠けてくるはずだ。やはり、お互いの研究の成果をぶつけ合う勝負こそ、誰もがめざす将棋の醍醐味だろう。 

まずは、2筋の攻防をお互いに理解すること。、そうすれば、今後の展開として、「歩」と「飛」に「銀」を加えた「棒銀戦法」などの攻撃の高等戦術も理解できるようになる。また、守備側は、さらに受けに磨きをかけねばならなくなる。お互いの切磋琢磨が、さらに進化するのだ。今後は、そのような戦術と受けについてもガイドしていくつもりである。どうぞ、おつきあい願いたい。
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2筋の攻防を理解しよう

合い言葉は「めざせ5級」である。

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