パート練習が必要

将棋の腕を上げるのに、実際の対局はもちろん役に立つ。だからと言って、対局ばかりしていればいいわけではない。たとえば野球。練習試合だけでは、選手のスキルアップは難しい。だから、彼らはキャッチボールから始め、素振り、ノック、シートバッティング、走塁など、試合という全体をパートに分けて練習する。将棋も同じだ。パート練習は、棋力向上に効果を発揮する。その好例が詰将棋であろう。詰将棋は終盤力を磨くすばらしい方法だ。

序盤感覚を磨く方法は 

詰将棋が終盤力を磨くのであれば、序盤、つまり、出だしを磨く方法はなんであろうか。「なんだ、そんなことか、それなら簡単だ。定跡書を読めば良いではないか」という意見もあるだろう。たしかに、大人の愛棋家にとってならその通りだ。しかし、子どもにとって定跡書というのは決して敷居が低いものではない。そして、これが私にとっても大きな課題だったのだ。
 
私は、湯の町・大分県別府市で子ども将棋教室「将星会」を営んでいる。県内各地からいろんな子ども達が集まってきてくれる。当然ながら、どの子も対局が好きだ。真剣なまなざしで盤を囲んでいる姿は、美しささえも感じるほどだ。

そして、多くの子は詰将棋が好きだ。パズル感覚で取り組めて、答えがはっきりしていて、自分の正誤がわかることが魅力なのだ。自分で詰め将棋の問題集を購入したり、教室に置いてある本をめくったり、問題を解いたりしている。対局に比べて時間も少なくてすむし、手軽なのだろう。

一方で、定跡書は、入門期の子ども達にとって、難しく退屈な作業となる。定跡書を利用することなく、この子達に序盤の力をつけてあげる良い方法はないものか……。それをずっと考えていたのだ。ああでもない、こうでもない。苦闘の日々は続いた。子ども達が喜んで取り組み、力となる方法はないものか。

有段者を輩出した「成り駒将棋」

そして、とうとう考案したのが、題して「成り駒将棋」である。私は、子ども達にすすめてみた。さて、子どもの反応やいかに……。結論を先に書こう。大成功であった。 

「先生、成り駒させてよ」

子ども達は、この成り駒将棋が大好きになってくれたのだ。そして、「成り駒」で腕を磨いた子ども達の棋力は急上昇。なんと有段者まで輩出するようになった。

「成り駒将棋」の仕方

それでは、その方法をガイドしよう。子どもだけではない。大人にとっても、良い練習になるし、短時間でできるので、休憩時間などを利用し、職場の仲間と取り組まれていただけたら幸いである。あなたの序盤感覚はグッとアップするはずである。

ルールは簡単

成り駒将棋のルールは以下の通りだ。

  1. 常の将棋と同じように並べる。
  2. 先手後手は、振り駒、またはジャンケンで決める。
  3. 通常の将棋と同じように1手ずつ交互に進める。
  4. 次の一手で取られない「成り駒」を作れば勝ち(王将を取られても良い)。

実に簡単なルールだ。ようするに通常の将棋と違うのは、「次に取られない成り駒を作ったら勝ち」という点である。

成り駒将棋の良さ 

「王」を詰ますまでの通常の将棋では時間がかかる。そして、敗因がはっきりしないのだ。序盤で負けていたのか、中盤の指し方が悪かったのか、終盤の受けが悪かったのか……。複雑になりすぎて、結局、「弱かったから負けたのだ」に落ち着いてしまいかねない。
 
その点、「成り駒将棋」は、序盤に限っているため、悪かった点がはっきりしやすいのだ。また、前述のように短時間で決するため、手軽である。その上、気が抜けず、通常対局さながらのスリリングな展開にもなる。子ども達が熱狂するのも頷けるだろう。

実例を紹介

これは、私の教室に入門したばかりの子どもの対局実例である。実はこれ、特殊な例ではない。かなりの頻度で出現する例なのである。先手は入門したての子。駒の動かし方は知っているが、戦法は知らない。もちろん成り駒将棋は初めてである。後手も同じく入門したてであるが、何度か「成り駒将棋」を体験した子どもである。さて、ご覧いただこう。

【一手目】
将棋

一手目


まず、先手が初手「▲7六歩」と角道をあけた。角を使っていきますよという手、入門したての子どもながら立派な手である。

【二手目】
将棋

二手目


後手も角道をあけてきた。「△3四歩」である。堂々たる勝負を展開しようという意気込みが感じられる。

【三手目】
将棋

三手目


ここで、先手は「▲7八銀」と銀を上げた。この「銀」が切り込み隊長のように敵陣へ乗り込んでいく構想だろうか。その意気や立派である。しかし……。そう、この手は悪手であった。笑うことなかれ、入門期ゆえの失策だったのだ。

【四手目】
将棋

四手目


成り駒将棋を体験済みの後手。ここで、すかさず決定打となる「△8八角成」を放った。「馬」を作ったのだ。決まりである。この「馬」を先手は取ることができない。つまり、「次の一手で取られない成り駒」ができたため、後手の勝ちとなったのだ。

懲りることを覚える「成り駒将棋」

実例で紹介した対局、なんと四手で終了である。時間にして1分もかかっていない。皆さんにとって、あっけなく感じられるかもしれない。しかし、これが子ども達にとって大切なのである。 

もし、この対局が通常の将棋だったとしよう。先手は大きく不利になったものの、まだ対局はもちろん続く。そして、入門期の子どもにとって王将を詰ますのは大変な作業なのである。もしかすると、もたもたしている間に大逆転が起きてしまうかもしれない。

また、後手が「二歩」などの反則を犯してしまうことだってあり得るのだ。そんなことは、珍しいことでも何でもない、よくあることだ。となると、この先手の悪手「▲7八銀」がかすんでしまう。ところが、この「成り駒将棋」は、ここでジ・エンドである。悪手がかすむことはない。だからこそ、先手の子は考える。

「この銀を上げた手が悪かったんだ」

そして、懲りるのである。二度としまいと心に誓うのだ。これが、序盤を大切にしようという心構えにつながっていく。こうして、序盤から、一手一手に、慎重になっていく習慣がついていくのだ。

改良点

ここまで紹介してきた「成り駒将棋」は、あくまでも私の教室で行っている一例である。もちろん、私以前に、どなたかが発案されて実践されているかもしれない。いずれにしても、ローカルルールである。だから、まだまだ改良の余地があるはずだ。

たとえば、「王将」を取られたら負けにした方がよいというご意見もあるだろう。そんなこんなを含めて、ぜひ、実践後の感想をお知らせ願いたい。お互いが慣れてくれば、手に汗握る熱戦になることも実証済みである。繰り返しになるが、手軽でしかも、高効果なのだ。何度も試していただきたい。もちろん合い言葉は「めざせ五級」である。

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