ジャズ楽器を始めてみよう! 【ピアノ編】
忙しい方のためのジャズ楽器【ピアノ編】
でもこのピアノ、習得には結構努力と時間が必要です。「バイエル」にはじまり「チェルニー」へと進むにつれ、段々疎遠になってしまったという方も……。とは言え、子供のころに習い覚えた技術はそうそうに忘れないもの。ジャズを聴いて、ピアノのムシがむずむずしている方も多いのではないでしょうか。
「何年もピアノに触ってないから」「もう忘れちゃったし、時間もない」とあきらめているあなたに、もう一度演奏する楽しみ(苦しみ?)を思い出してもらいましょう。まったく初めての方も、良い機会ですので思い切って始めてみてはいかがですか。
きっと、新しい世界があなたを待っているはずです。
1:楽器と練習場所
まず、始めるにあたってご自分のピアノやキーボードをお持ちの方は、楽器と練習場所は一気に解決です。ご自分の環境で、始めて下さい。お持ちでない方や、まったく初めての方には、やはり本物のピアノで練習される事をオススメします。ひとつには、やはりサウンド的にいわゆるピアノとキーボードでは別の楽器と考えた方が良い事と、もうひとつは、これが大事ですが人前で演奏する機会や披露した場合のインパクトが違うからです。
バーやレストランなどはもちろん、ピアノが置いてあるオシャレな環境では、成り行きでちょっとご披露といった場面に遭遇することも十分あり得ます。日頃からピアノに親しんでおくということが大事になってきます。
ピアノを弾くというのは、結構根気がいる行為です。いつの日か、練習した曲をさりげなく披露するご自分の姿を想像して、励みにするのが練習を続けるモチベーションにもなるでしょう。
それでは、どこに行けば本物のピアノで練習ができるのかという疑問には、やはり前回のサックス同様、貸し音楽スタジオが良いでしょう。
大概の貸し音楽スタジオが、ピアノを置いている部屋を持っています。ピアノに関しては、特に演奏人口が多いために、ピアノ専用のスタジオもあるくらいですので、ご自身のお近くの練習スタジオをご利用ください。
探し方も前回同様、WEBの検索で「ピアノ練習 貸しスタジオ 場所(ご自分の都合の良いところ)」といれれば沢山探せますので、お試しください。
2:曲選びと譜面
いよいよ、ピアノと場所が準備できたら、次は曲選びと譜面が必要です。ピアノはメロディ、和音、リズムの全てを表現することが出来る楽器です。それだけに特にクラシックでは、始めのうちはずっと一人で練習や演奏をすることが多いです。もちろんジャズにもソロピアノはありますが、折角ジャズが好きになったのなら、色々な楽器と一緒にやれたら楽しいもの。そこで、曲選びと譜面は下記をオススメします。
はじめてのジャズピアノトリオ with CD 1人でも楽しめる名スタンダードナンバー30
この譜面集は、模範演奏のCDもついており、楽譜だけではなく、耳からのイメージも湧かせることが出来る心強い味方です。収録曲も、ジャズ演奏のイロハと言われるものはほとんど収録されており、選曲のバランスも良く、この本をマスターとまでは行かなくても、持っていれば、他のプレイヤーともセッションが出来るのが特徴です。
特にジャズ演奏の四大イロハ■その一、循環コード
■そのニ、Fブルース
■その三、枯葉
■その四、マイナーブルース
がそれぞれ代表的な曲で紹介されているのがうれしいところ。次のページでそれぞれの代表的な演奏と特徴をご紹介しますね。
その1:循環コード
マイルス・デイヴィス 「バグス・グルーヴ」より 「オレオ」
Bag's Groove
循環コードは、もともとアメリカの有名作曲家ジョージ・ガーシュインが作曲した「アイ・ガット・リズム」という曲のコード進行の事を言います。アイ・ガット・リズムのコード進行なので「リズムチェンジ」とも呼ばれています。
ジャズ(JAZZ)においては、このコード進行をもとに沢山の曲が書かれており、その中でも代表的なものと言えるのが、有名サックス奏者ソニー・ロリンズが作曲した「オレオ」です。
その2:Fブルース
マイルス・デイヴィス 「バグス・グルーヴ」より 「バグス・グルーヴ」
同じマイルスのアルバム「バグス・グルーヴ」にはタイトルになっているFのブルース「バグス・グルーヴ」が入っています。こちらは、ヴィブラフォン奏者のミルト・ジャクソンのオリジナル曲です。題名のバグスは、ミルト・ジャクソンの目の下の特徴的なクマ(バグスというそうです)からきています。グルーヴは乗りと言った感じでしょうか。ミルト・ジャクソン特有のうねるようなノリという意味の彼の代表的な曲です。
この曲のコード進行のFのブルースとは、十二小節のブルース進行(コード進行の形式)に沿った曲の事で、調性がF(ドレミで言うところのファ)から始まる音階で成り立っている曲と言う事です。
つまり、ブルースは十二種類あるという事ですが(ドから始めて半音も含めて十二音階)、ジャズでは頻繁に使われるのがこのFかもしくはCのブルースになります。
ここにサックス奏者がバンドにいるとB♭やE♭のブルースが入ったり、ロックミュージシャンが多いとAのブルースだったりします。これらを覚えておくと、セッションでは何とか一緒に演奏が出来るという事になります。
このマイルス・デイヴィスの「バグス・グルーブ」にはニテイク演奏が収められています。ここでのピアニストは有名ピアノ奏者のセロニアス・モンクですが、マイルスのソロではバッキングをまったく入れていないために、録音当時にマイルスとモンクの間に何かあったのではないかとされる「ケンカセッション」と言われていた有名な演奏です。
この「ケンカセッション」の真相は、マイルスの自伝によると、ケンカではなくて、「俺の後ろでは弾かないでくれ」と頼んだとあります。良い意味でも悪い意味でも癖のある特徴的なモンクのピアノなので、マイルスにしてみれば純粋に音楽的に合わないと感じたのでしょう。
事実、マイルスのソロとモンクのソロでは、同じ曲とは思えないほど両者のイメージの違いがはっきり出ています。マイルスがリーダーのセッションとはいえ、作曲者でもあるミルト・ジャクソンが、あくの強い二人に挟まれ、やや影が薄くなってしまった感があります。
でも、そのあたりがジャズの面白いところでもあります。他人のもの(曲)でもいかに、自分の色に染められるのかが、演奏者の資質を決める重要なファクターだからです。そういった意味でも、かみ合わないマイルスとモンクが一緒にやるには、これしかなかったのかなと思わせる演奏です。
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その3:枯葉
ジーン・アモンズ&ソニー・スティット 「ボステナーズ/ディグ・ヒム」より 「枯葉」
BLUES UP & DOWN - BOSS TENORS & DIG HIM
枯葉はジャズの生まれたアメリカの曲ではなく、フランスのシャンソンです。世界的に有名な曲ですが、ジャズでも頻繁に取り上げられることが多い曲です。その傾向は日本では顕著で、非常にポピュラーなジャズの曲とされており、特に大学のジャズ研では、定番になっている曲と言えます。
かく言う私も、大学のジャズ研に入った時に、一番最初にFのブルースと枯葉を先輩から課題曲として与えられたという思い出があります。
発売当時はニ枚の違うアルバムに分けられていた演奏ですが、CDになって一枚に収められたものです。ここでは、一日違いの枯葉をニテイク聴くことが出来ます。この一日違いのメンバーも同じニつの演奏が、アレンジが全く違っている所がジャズの面白いところでもあります。二人のサックス奏者のアドリブも、ニ回とも同じではないあたりが、ジャズの粋と醍醐味と言えます。
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その4:マイナーブルース
ジョン・コルトレーン 「ジャイアント・ステップス」より 「ミスターP.C.」
ジャイアント・ステップス
マイナーブルースも、セッションでは頻繁に演奏されるコード進行です。ここでは、絶頂期にあったコルトレーンの全力投球のCマイナーブルース(Cの調性のマイナーブルース進行)を聴く事が出来ます。
題名の「ミスターP.C.」のP.C.とは、メンバーのベース奏者ポール・チェンバースの事です。コルトレーンにとってはポール・チェンバースはマイルスのバンドで一緒にプレイした仲間。彼への親しみとリスペクトを感じる名演です。
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全くピアノが初めての方へ、弾き語りのすすめ
ジャズにおいてもピアノは、人気の花形楽器ですが、習得するのは難しい楽器とも言えます。特に、経験のない初めての方には、ハードルが高い楽器でもあります。そこで、ここでは初めてピアノに触れる超初心者の方へ、「弾き語り」をおすすめします。「えっ、ピアノが全然弾けないのに、いきなり弾き語り?」とお思いでしょうが、オススメするには次の三つの理由があります。
1.リズムを気にしなくても良い
自分一人で出来ますので、リズムと合わないという事がありません。自分のペースで演奏が出来ます。
2.ピアノと歌、それぞれがある程度でも良い
拙くてもご愛嬌。味と言い切ってしまいましょう。
3.ピアノの弾き語りはみんなのあこがれ
弾き語りと言うだけで、皆の注目を集める事請け合いです。
と、良い事づくめの弾き語り、自分のレパートリーを一曲でもものにできれば、周りの注目度が一気にアップする事うけあいです。この機会に、是非チャレンジしてみてくださいね。
マット・デニス 「プレイズ・アンド・シングス」より 「コートにすみれを」
プレイズ・アンド・シングス
このCDは、ジャズ界のシンガーソングライター、マット・デニスの代表作と言われる曲がほとんど入っている徳用盤です。ライブ録音ですので、マットの弾き語りの都会的な粋さがそのまま入っており、弾き語りのお手本のような演奏です。ぜひこの雰囲気を参考にしてください。
Amazonブロッサム・ディアリー 「ブロッサム・ディアリー」より「ザウ・スウェル」
Blossom Dearie
ニューヨーク生まれなのに、アメリカではなかなか芽が出ずに、フランスに渡ってチャンスをつかんだ彼女の、アメリカでの実質の初リーダー作。独特の鼻にかかった様なキュートな歌声が全編に渡って聴かれます。特に、この「ザウ・スウェル」は出だしから自身のピアノとの掛け合いになっており、弾き語りの練習用には最適と言えます。
今回の「ジャズ楽器やろう!ピアノ編」はいかがでしたでしょうか。なお、自宅で弾ける環境の方は、オンラインレッスンなどもおすすめです。ヤマハを始めとして、何社かがオンラインでの学習を行っています。私もサックスを、オンラインとリアルのどちらも初心者の方にお教えした事がありますが、共通するのは、やりたい!という熱い気持ちです。始めるぞ!という気持ちさえあれば、後は方法を選ぶだけ。一緒に楽器ライフを楽しみませんか。
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