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ドイツ語の格変化……der,des,demはcaseのしるし
ドイツ語文構造を知る上で大変重要な、「格(Kasus/カーズス)」について説明しましょう。
まずは上の表で、日本語・英語・ドイツ語の人称代名詞の変化を比較してみましょう。日本語では「私が、私の、私を/私に」というふうに、「私+格助詞」によって表現される働きの違いが、英語では”I, my, me“という単語自体の違いとして表され、それぞれ文法用語で主格、所有格、目的格と区分されていました。つまり格(case)とは、その語が文中の意味や機能上どの場合(case)に該当するのかを指し、その相違は変化形として表示されるのです。ドイツ語人称代名詞の格変化も英語のそれと似ています。が、ご覧のとおりmeに当たる語がmirとmichに分かれ、4つの格となっています。文法用語では順番に主格(Nominativ)、属格(Genitiv)、与格(Dativ)、対格(Akkusativ)と称されるのですが、一般には1格、2格、3格、4格と、番号を当てた区分が馴染まれています。
例えば、「僕が君を彼女に紹介しよう」に当たる文を、英独で比較してみましょう。
I will introduce you to her.
Ich stelle dich ihr vor. (イッヒ シュテレ ディッヒ イーア フォア)
ドイツ語文では「君を (dich)」「彼女に (ihr)」というcaseの違いが、英語文のように前置詞(to)を用いることもなく、格変化で明示されているのが分かりますね。
加えてこのドイツ語文ではさらに、
Dich stelle ich ihr vor. (君を僕が彼女に紹介しよう)
Ihr stelle ich dich vor. (彼女に僕が君を紹介しよう)
といったふうにこの格の明示性のおかげで、日本語同様、語順もかなり自由に設定されうるわけです。
定冠詞・名詞の格変化
この格変化は、英語では今日代名詞以外ではほぼ消失していますが、ドイツ語では冠詞や名詞、形容詞、数詞に見ることができます。 ドイツ語の定冠詞。「der(デア)・des(デス)・dem(デム)・den(デン)、die(ディー)・der(デア)・der(デア)・die(ディー)、…」と、口ずさんで覚えられた向きもあるでしょう。どれも英語ではtheに相当します。ドイツ語名詞の3種の性に対応しているので煩雑に見えるかもしれませんが、要するに定冠詞は、それが付く名詞の性・数・格に応じて格変化するのです。それによって例えば文中に“dem Mädchen(デム メートヒェン)“が登場すれば、それがどの位置であろうと、「Mädchen(少女)は中性名詞なので、<その少女に>という、単数3格だな」と推測できます。その格の目印となる-erや-emといった語尾を、格語尾と称します。
Die Frau liest den Kindern das Buch des Mannes vor.
(ディー フラオ リースト デン キンダーン ダス ブーフ デス マネス フォア)
その女性は子供たちに、その男の本を読んで聞かせる。
格語尾が日本語文の助詞と同様、語の働きの指標となっているのが分かりますね。そしてやはり、以下のように語順を入れかれても、格語尾のおかげで語の関係が把握できます。
Den Kindern liest die Frau das Buch des Mannes vor.
Das Buch des Mannes liest die Frau den Kindern vor.
形容詞の格変化
形容詞が名詞を修飾する付加語となる場合も、冠詞の種類・有無に応じた格語尾をとることになります。表の例はそれぞれ英語の"the good morning"、"a good morning"、"good morning"に当たる表現ですが、"good"に当たる形容詞gut(グート)に、-eや-en、場合によっては-er、-enといった格語尾が付いています。
注意して頂きたいのは、どの場合でも必ず格の目印となる語尾(赤字)が、冠詞・形容詞・名詞のいずれかに付されていることです。これにより例えば挨拶の記事で紹介しましたように、"Guten Morgen!"が冠詞を取らずとも、"Ich wünsche Ihnen einen guten Morgen!"に由来する、「良い朝を!」の意であることも暗示されるわけです。
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