健康診断実施の受診時間の賃金は?
健康診断実施後の措置を適切に行っていきましょう
1.特殊健康診断の場合
特殊健康診断は事業の遂行にからんで当然実施されなければならない性格のもので、所定労働時間内に行われるのが原則ですから賃金支払い義務が生じます。またこの健康診断の時間は労働時間と解されるので、時間外に実施された場合には割増賃金(残業手当)の支払い義務があります。
2.一般健康診断の場合
一般健康診断は一般的な健康の確保を図ることを目的として企業に実施義務を課したもので、業務遂行との関連において行われるものではないため、労使協議の上で支払をするかどうか決めるべきものとされています。
但し従業員の健康管理は事業の円滑な運営に不可欠な条件であることを考えると企業が支払うことが望ましい、との通達がなされています。このことを受けて賃金支払いをするべきでしょう。
では、再検査、精密検査をしなければならない場合はどうでしょうか。実務上はよくあることですね。この場合は法定健康診断ではないので、労使協議の上支払いをするかどうかあらかじめ決めておきましょう。人によって支払の有無が異なる取扱いをしてしまうとトラブルの基です。
健康診断実施後の具体的企業実務はこうする!
健康診断は実施するだけで満足してはなりません。その後の取組みが出来ていないと企業が損害賠償責任を問われることもあるのです。漏れている事項はありませんか?1.結果は5年間の記録義務
健康診断結果は健康診断個人票を作成。5年間の保存義務があります。一部特殊健康診断による個人票は30~40年間の長期保存義務があるものもあります。
2.健康診断結果について医師から意見聴取義務
健康診断の項目に異常の所見のある従業員について、必要な措置を医師(歯科医師の健康診断については歯科医師)から意見を聞かなければなりません。
(例)次のような判断を求めることです。
・通常勤務
・就業制限(勤務に制限を加える必要のあるもの)
・要休業(勤務を休む必要のあるもの)
3.健康診断実施後の措置
上記2の意見を勘案し、必要があると認めるときは、作業の転換、労働時間の短縮などの適切な措置を講ずる義務があります。
4.健康診断結果の従業員への通知義務
健康診断結果は、実施後遅滞なく従業員へ通知しなければならないことは言うまでもありません。
5.健康診断の結果に基づく保健指導
健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要がある従業員に対し、医師や歯科医師による保健指導を行うように努めなければなりません。
6.健康診断結果の所轄労働基準監督署長への報告義務
常時50人以上の従業員を使用する事業者では、定期健康診断の結果を遅滞なく所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。なお定期の特殊健康診断の結果報告書は、従業員数に関わらず提出義務があります。
全国健康保険協会による「生活習慣病予防健診」との相違点!
以上労働安全衛生法によって企業に義務付けされている健康診断を解説してきました。その一方で、企業が加入している健康保険制度では疾病予防の目的から健診の案内がされています。費用の補助がありますから積極的に利用している企業が多いようです。主に中小企業が加入している全国健康保険協会では、「生活習慣病予防健診」として35歳以上の従業員を対象に実施されています。従って、「労働安全衛生法に基づく健康診断」と「健康保険による生活習慣病検診」の両者を受診する従業員も多く見受けられるところです。問題点はこれを混同して、健康保険による検診を受けているから企業で実施する健康診断はしなくてもよい、と解釈している企業が非常に多いことです。両者はその趣旨・目的が違うので別物です。
■従業員の合意を基に健康保険による生活習慣病健診結果を利用することも一考!
実施項目は非常に似ていますが全く同様ではありません。実際には予防目的の生活習慣病予防健診の方が内容が充実しているようです。健診項目を確認の上、企業が実施すべき項目を網羅している場合、従業員の合意を条件にその結果を企業が利用することも可能です。
但し、全国健康保険協会の健診の補助は35歳以上です(健康保険組合に加入している企業では、加入している組合に確認してください)。補助を受けられない若年者などは、やはり別個に、今回解説した健康診断を実施しなければなりませんので注意が必要です。
<関連資料>
健康診断による健康管理を進めよう(東京労働局)