2人の思惑は思わぬ形で一致。舞台写真/渡部孝弘
血なまぐさい話なのに、愉快で切ないのはなぜ?
はまっております、ミュージカル『スウィーニー・トッド』。ティム・バートン監督ジョニー・デップ主演の映画でお馴染みの方も多いはず。宮本亜門演出、市村正親&大竹しのぶ主演によるプロダクションは2007年に初演。大人気を博し、2011年に再演、そして今回の再再演でついに“ファイナル”を迎えました。今年4月に発表されたローレンス・オリビエ賞では2012年のロンドン・リバイバル版がミュージカル・リバイバル作品賞、ミュージカル主演男優賞、ミュージカル主演女優賞を受賞。向こうでの人気のほどがうかがえます。
妻に横恋慕し、自分を島流しにした判事に復讐を企てるスウィーニー・トッド。ロンドンに戻った彼は正体を隠して理髪店を開きますが、素性に気づいた理髪師に強請られ、殺してしまいます。困ったのは死体の処理。そこでトッドの店の下でまずいパイ屋を営むミセス・ラヴェットが思いつくんですね。ただでさえ肉不足なんだから、パイにしちゃえばいいじゃない!
…と、ストーリーを思い出すだけで、背筋が凍る血なまぐささ。なぜこんな話がミュージカルになっちゃったの?とも思いますが、観ているうちにこの世界観にぞっこんになってしまうんですよ。なぜでしょうね?
きれいに歌い上げるミュージカルとは一線を画す
コンビナートをイメージした硬質な美術。KAATでの仕込み風景。
たとえば重唱だと、コードに合わせて美しくハモるのが一般的ですが、この作品の場合、歌詞もリズムもメロディーもまったく異なるものを合わせていたりするから謎過ぎる!五重唱になると、歌い出しもバラバラで、誰がどこから歌うのか、素人の私からするとさっぱり読めません。
「指揮者が見づらいと、歌の出だしはどうやってわかるのですか?」とキャストの方たちに質問したら「カウントする」「勘」「練習通りに頑張る」との答え。「もし半拍ずれたら?」と聞くと、「入れない」「崩壊する」「もう無理!」…。