北欧最大の民族音楽フェスティバルの舞台は、
農村楽師文化の聖地カウスティネン
のどかな街カウスティネンでは、夏のフェスティバルの期間になると街の中心にメインテントが設営され、市民総出で準備が進められる
毎年7月に北欧最大級の民族音楽フェスティバルが開催されるカウスティネン(Kaustinen)は、オウルやヴァーサなどから比較的近い、フィンランド北西部にある人口わずか4000人ほどの小さな街です。
カウスティネンでは、現在もあらゆる世代の人が自由にペリマンニ音楽を嗜み、披露しあう
カウスティネンは、「ペリマンニ(Pelimanni)」と呼ばれるフィンランド民族音楽の伝統文化が、街をあげて今日まで受け継がれていることで知られています。ペリマンニというのは、中世にこの周辺地域から全国へと波及した、農村楽師というユニークな稼業を指す言葉。かつて村々には、普段は何らかの仕事に従事しながら、副業として、村の婚礼式などの祝宴のたびに朗らかなダンス音楽を奏でて場を盛り上げる楽師の家系が存在したのです。
演奏に使われたのは、ヴァイオリンやアコーディオンをはじめ、時とともに次々と周辺国から伝わってくる楽器たち。もちろん歌声も重要な音楽の要素です。とはいえ、ペリマンニたちは音楽教育を受ける機会に恵まれなかったので、楽器の奏法はほぼ自己流。さらに楽譜も存在しなかったため、メロディは常に耳で覚えて受け継がれていったといいます。こうした背景からも、ペリマンニ音楽はとても素朴かつ多彩で、居合わせた人々を幸せの輪に誘い込む特有の雰囲気に満ちています。
今や国をまたいで活躍する、カウスティネン出身の音楽家たち
幼少期から自然と民族音楽に慣れ親しんできたカウスティネン出身の音楽家のなかには、今や世界で活躍する著名アーティストも少なくない
ペリマンニという職業自体は、今では全国的にもほとんど見られなくなってしまいましたが、実はカウスティネンの村落にはいまだに由緒あるペリマンニ家系が存在します。さらになんと住民の半数以上が、プロとして、あるいは副業や趣味以上の趣味として音楽を嗜んでいるのだそう。現在の街には子どものための私設音楽学校があり、幼少期から器楽演奏や民族音楽の響きに馴染むことのできる環境にも恵まれています。
街の私設音楽学校ナッパリに通う子どもたちのパフォーマンスも必見
いっぽうで、世界的にフォークミュージックへの注目が高まる昨今、「ペリマンニ音楽」はフィンランドのフォーク音楽のいち代名詞として脚光を浴びつつあります。今日では世界中のライブ・コンサート会場で、すぐれた技術と感性を持った若手演奏家たちが颯爽とペリマン二音楽を奏でる時代が来たのです。JPPやFRIGGなど日本にもたびたび招待されるほど国内外で名を馳せた、気鋭の民族音楽ミュージシャンたちのなかにもカウスティネン出身者がたくさんいることは、街の大きな誇りです。
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