住まいのプロが提案「イエコト」/住まいなでしこ ~女性目線のすまいのヒント~

トイレは家の品格を表す場所

家の間取りを決めるとき、残念ながらトイレの優先順位はあまり高くないことが多い。でも、トイレが貧相だと家全体のイメージが悪くなってしまうこともある。

井上 恵子

執筆者:井上 恵子

住まいの性能・安全ガイド

家の間取りを検討するとき「トイレ」を最優先するという話はあまり聞いたことがない。節水トイレやウォシュレット、暖房便座など便器の機能性はぐんぐん上がっているけれど、トイレの「広さ」や「快適性」についてはどうだろう。

しわ寄せはトイレに

トイレは家の中でもあまり注目されない場所であるゆえ、設計の過程で最終的にしわ寄せがくるのもここではないだろうか。

例えばどうしてもリビングに○畳欲しいから、トイレは少し狭くなってもしょうがない…みたいな。そしてたいてい陽の当たらない北側か、窓が取れない場所をあてがわれたりしている。

木造にはモジュールがある

トイレ空間を侮ってはいけない。

気持ちの良いトイレがいい。

生まれてこの方、物心がついたころから郊外の一戸建てに住む期間が長かった。トイレは広々としていた。そして通風・採光の取れる窓もあった。

木造一戸建ての場合、柱と柱の距離のモジュール(基本単位)が決まっている。木造住宅のモジュールは尺(しゃく)が基本で、1尺は10/33メートル(約30.303センチメートル)。トイレの芯々寸法(柱の中心から柱の中心までの寸法)の最低ラインは、短辺は3尺(約91センチメートル)、長手方向には4尺(約1.21メートル)といったところだろうか。

なぜ木造住宅のトイレは広めなのか

そうなると、壁の内側で計った有効寸法だと、短辺で85センチメートル、長手方向では1.15メートル程度になる。これだと長手方向の寸法がややきつめに感じると思う(ちなみに我が家は1.13メートル)。

しかし、この木造住宅におけるトイレの最低寸法はあくまで「最低」寸法であり、実際はさらに一尺、もしくは0.5尺分ゆとりをもって設計されることが多い。そうしてわりとゆったりとしたトイレとなる。モジュールとの関係もあるが、もともと床面積が広く取れる一戸建てなら「極小トイレ」はそうそう作られにくいものだろう。

気をつけたいマンションのトイレ

気をつけたいのが鉄筋コンクリート造や鉄骨造などのマンションのトイレだ。室内の間仕切りは軽量鉄骨で組まれ、表面に石膏ボードを張り付けて仕上げることが多い。そのような間仕切りの場合木造のようなモジュールによる縛りはなく、数ミリ単位で動かすことが可能であり、わりと自由に寸法を決めることができる。

この「自由に」という部分がミソで、自由に決められるということは、物件によってトイレの広さにバラツキが出てくるということになる。住戸面積に余裕がなく他の部屋の広さを優先させれば、設計段階でトイレの壁が数ミリ、数センチ単位で削られていくこともある。

トイレだけ手狭な間取りってどうなの?

「トイレって大切なんだなぁ」と思ったのは一昨年の引っ越しで入居した賃貸マンションのトイレが狭かった、から。住まい全体が狭いならまだ納得するのだけれど、リビングや和室など、その他の主たる部屋は比較的広く、天井は高く、建物は古くてもなかなか品のある造りになっている。

それなのに、トイレだけは「そこまで気配りができませんでした」という感じで狭く、非常に残念な空間になっている。もし客人がきてトイレに入ったら、その瞬間に「あれ?」と思うに違いない。トイレが家全体のイメージを下げてしまうに、違いない。

目立たない部分にこそ気配りを

このような実体験から「トイレ空間を決して侮ってはいけない」と思う。トイレは長い時間を過ごすわけではないけれど、一日に何度も使う場所。「トイレ」がおざなりな家では、一日に何度もがっかりすることになる。トイレに入った来客の、家への印象もだいぶ変わるだろうと思う。

同じことが「玄関」や「収納」にも言える。リビングばかり広々としていて玄関や収納が極端に小さい家はいただけない。優先順位が後回しにされがちな部分にこそ、配慮や工夫が見えたらうれしい。そんな気配りができている家が「品」を感じることができる家だと思う。

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