住まいのプロが提案「イエコト」/住まいなでしこ ~女性目線のすまいのヒント~

古くても居心地のよい空間

新しい建物でも古い建物でも、その空間に入った時に、実際の面積より広がりを感じたり「心地よい」と感じたりする時がある。その大きな要因のひとつは「天井の高さ」だ。平面図だけではわからない縦方向の空間の広がりは、そこに足を踏み入れた時に大きなインパクトを与える。

井上 恵子

執筆者:井上 恵子

住まいの性能・安全ガイド

記憶をたぐり寄せると、私が最初に空間の「スケール感」に圧倒され感銘を受けた建物は、学生時代に訪れたイタリアのバチカン市国のサン・ピエトロ大聖堂だった。

 

「感動」する内部空間

サン・ピエトロ大聖堂は壮大な石造によるバロック形式の建物で、ゴテゴテした派手な装飾については好みもあると思うけれども、それよりもなによりも、その大きな室内空間がそれまでに体験したことのないスケールで、圧倒された。

日本でも古くからあるお寺なども天井がうんと高く造られているけれども、いわゆる一般的な木造の建物だと平面的にも立面的にもあまり大きな空間は造れない。その感覚が染み込んだ状態で、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂の「これでもか」と広がった空間に入り込んで、自分の世界観をひっくり返されたように、びっくりして、感動したのだった。

木造でも縦方向の広がりを

天井を高くとった保育園の例。空間の感性が磨かれることを願って。

天井を高くとった保育園の例。
 

世界遺産の大聖堂から受けた感銘は、生涯忘れることはない。そんな「空間の縦方向の広がり」をまずは身近なところから生かすべく、6年前に設計した木造平屋の保育園では、みんなが集まる部屋の天井を高く、縦方向の広がりを持たせるようにした。

縦方向の広がりは天井高さだけではなく、床のステップ(段差)でも付け加えることができる。その保育園では同じ室内で床に段差があり、高い場所、低い場所がある。思い思いの場所で子どもが遊ぶ。

真四角でない、でこぼこしてのびのびした空間で、子どもたちがそこでいろんな感性を磨いてほしいと願いを込めた。

 

平らな天井が好まれる日本の住まい

私たちの住まいの天井はどうなっているだろうか。戸建て住宅で屋根が傾斜していても、屋根の下にまっすぐな天井を張ってしまい、天井裏の空間がデッドスペースになっている造りも多い。天井高さは2.4メートルが標準だ。

しかし、数センチ天井が高いだけで空間の広がりは、だいぶ違う。例えば私の今住んでいるマンションは築16年と決して新しくないけれど、天井がやや高く、個室で2.55メートルある。だから、たとえ同じ6畳間でも、他の物件よりその空間がかなり広く感じる。圧迫感がなく、古い建物でも気持ちが良い。そういうところがとても気に入っている。

平面的な検討だけでなく断面的な検討も

これから家を建てたり、買う予定のある人は、室内の天井高さもチェックしてみて欲しい。もし平面的な広さが足りないな、狭いな、と思ったら、「縦方向に伸ばせないか?」と検討してみるといいと思う。吹き抜けを作ったり、屋根の下の空間を有効利用してみたり、断面を工夫してみて欲しい。

上方向への広がりは視覚的な効果がある。例えば、広く見える・個性的な空間になる・記憶に残る空間になるなど、思ったよりおもしろい影響がある。

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