親は手を出さないことが子どもを育てる
『1年生からひとりでお弁当を作ろう』
坂本 廣子、竹下和男著
「弁当の日」を実施するにあたっての決まりごとは、
- 「弁当は買いだしから調理、弁当箱の後片づけまですべて子供たちが行うこと。親は一切、手を出さない」。
- 「小学5、6年生で行い、そのために前期(4~9月)の間に、栄養のバランスや買い出しから弁当の後片づけにいたるまで、学校が子供たちにすべて教える」
- 「10月から毎月1回、5回続ける」
弁当の日は、子どもたちは朝登校すると真っ先に弁当をひろげて、先生やクラスメートと見せっこし、自分の工夫をしたところなどを話します。1回目などは、やはり親が部分的に手伝っていることが多いようで、例えば「卵焼きの焼き方」とか「お米のとぎ方」など自分がしたであろう部分の話だけを得意げに話す子どもがいるものです。しかし回数を重ねると「全部自分で作った」「買物も一人でした」と誇らしげに話す子どもが増えていきます。
「手伝ってもらっていた子は、今度は絶対に自分も一人でやってみようと心に誓います。次回までの1ケ月の間に成長することが大きい。1回限りでなく短い期間で繰り返す意味はここにあるんです」と竹下氏は言います。
他者を認め合える心を育む
「弁当の日」を実践することで家族団らんにつながることも。
また「弁当の日」は、他者を認め合う心も育みます。プロ並みに仕上げた弁当、ボリユーム満点の弁当、ネーミングが素敵な弁当、盛り付けが美しい弁当・・・、子どもたちはそれぞれのよさや個性を認め、ほめ合いながら敬う心を育みます。
実際に自分が作ることで、毎日ごはんを作ってくれる家族に感謝の気持ちがわく子もいます。家族も子どもの成長を喜ぶことで、「私も家族の役に立てている!」と感じることで、自分の存在価値を知るのです。
弁当づくりのために、家族みんなで知恵を出し合ったり、お父さんも料理を始めたり、食に対する関心が高まり、「家族団らん」にもつながるということも大きな成果でした。さらに、食べ物となる命、食べ物を作ってくれる生産者や自然の恵みに対して有り難みを感じる等、様々な効果が見られました。
待ちわびる時間も、成長する時間
「弁当の日」は、小学5、6年生が対象ですが、1~4年生は関係ないわけではありません。竹下氏が実施した滝宮小学校では、600名収容のランチルームがあり、1~6年生の子どもたちが、交ざり合って昼食をとります。5年生のAさんが手作りのおいしそうな弁当を、それはそれは嬉しそうに食べている姿を、隣で給食を食べている1年生のB君がうらやましそうに横目で見ている写真がスライドで紹介されました。その1年生のB君が5年生に成長して弁当を食べている時には、1年生のCさんが横目で見つめています。そしてまた、その1年生のCさんが5年生になったら・・・。竹下氏は、退職後も滝宮小学校の「弁当の日」に出向き、10年以上の歳月をかけて、子どもたちの成長する過程を見つめてきました。
「1~4年生は、横目で眺めるのが仕事です。『いいなー、私も早く5年生になって弁当を作りたい』と感じるだけでいい」と竹下氏。
私たち大人は、なんでも安易に子どもに与えすぎている気がします。欲しいと思う物を簡単に手に入れるよりも、待って、待ってやっと手に入れた時の喜びは大きいものです。5年生になって資格を手に入れた時の、ちょっと大人になれたような達成感、挑む気持ちなど、待ちわびるプロセスにも成長がたくさんあるものなのだと思いました。