上司が部下を叱れないと、部下は正しい行動が分からなくなる
部下の行動の乱れに気づき始めたら、その場で叱るのが基本。しかし、つい見て見ぬふりをしてしまう上司は多いものです。たとえば、部下が次のような行動をとったときに、上司としてどのような対応をしていますか?・上司や顧客に対して、フランクすぎる言葉づかいをする
・段取りや交渉をきちんと行わず、仕事が雑になっている
・雑談に夢中で、仕事がはかどっていない
・時間や規則にルーズになっている
では、上司はなぜ部下を叱るのが難しいのでしょう。原因として考えらえるのが、次の2つです。
1. 組織自体がルーズで規範意識が低い
2. 上司が、部下との関係悪化を過剰に恐れている
組織のルーズさが「叱れない上司」を生んでいる
まず、1の「組織のルーズさ」について考えてみましょう。集団で業務を行っている以上、規範が必要になります。しかし、組織の規範に対する意識が低いと、上司も部下に対して規範を守ることの必要性を伝えることができません。規範意識が低い組織に属していると、人は誰でも「どこまでなら手を抜けるか」を計算してしまうものです。そして、所属する組織の規範意識のレベルを、部下はするどく見抜いています。同時に「こうした組織で働き続けて大丈夫なのだろうか?」という不安も感じてしまうものです。
したがって、部下のルーズさに気づいた時には、まず組織そのものの規範意識を見直してみることが大切です。
関係の悪化を心配しすぎることも「叱れない上司」を生む
次に2つ目の「部下との関係悪化を過剰に恐れること」について考えてみましょう。叱ることで「職場の雰囲気を壊すのではないか?」「パワハラだと言われたら……」と気を揉み、注意ができないタイプです。
人は本来「やるべきこと」「やってはいけないこと」を前もって示され、そのルールから道がそれた時に軌道を修正してもらえた方が、安心できるものです。また、物の道理を教えてくれる人に対しては尊敬と信頼を感じるものです。
「コラコラ、ダメだぞ~」などとゆるい口調で注意しても、真剣に聞くべき注意だとは思えません。「社長にバレたらどうするんだ?」などと評価を気にして注意をされても、叱られる側にはルールの大切さが伝わりません。
したがって、人の上に立つ人は叱ることの影響を恐れる前に、ルールを示して物の道理を伝える、という意識をもつことが大切です。
叱り方の3つのポイント「真剣さ」「とるべき行動」「叱る理由」
では、部下に対する叱り方は、どのようにすればよいのでしょう? (1)真剣な表情をする、(2)「とるべき行動」を伝える、(3)叱った理由を説明する、という3点がキーポイントです。たとえば、職場で無駄話をしている部下に対して、上司はどのように叱るとよいのでしょう? まず、その人に対して真剣な表情を向けること。次に「○○さん、仕事中には業務に集中してください」と「とるべき行動」を伝えます。そして最後に、「おしゃべりが過ぎると仕事の効率が下がりますから、気を付けてください」と叱った理由を伝えます。
このように、まっすぐな態度で注意され、とるべき行動と叱った理由をシンプルに説明されれば、部下の心にまっすぐ注意が伝わります。
怒りに変わる前に「きちんと叱れる上司」になる
人は言いたいことを言えずに我慢していると、心の中に不満を募らせてしまうものです。そして、不満が重なると怒りに変わり、何らかのきっかけで暴言として噴出してしまうことがあります。しかし、上司からそんな叱り方をされたら、部下は素直に注意を聞くことができず、反感をもってしまいます。
そうならないためには、部下の不適切な行動に対して、そのときその場でまっすぐ注意する。そして、叱り言葉に「尾ひれ」を付けないことです。
たとえば部下を注意した後に、「社会人なら普通はしないでしょ、そんなことは」などと嫌味を言う。「あのときもこのときも、そもそも君はなんでいつもそうなんだ!」と過去を引き合いに出して、ネチネチと叱る。こうした「尾ひれ」のついた叱り方は、不満が怒りに変わったときに、つい口をついてしまう言葉です。こうした叱り方をなくすには、不適切な行動に気づいた時にその都度端的に注意し、不満を残さないことです。
近年では、「部下をほめて育てる」ことの大切さが語られるようになりました。しかし、必要な注意をせずにほめてばかりいても、部下は会社や上司を甘く見るだけです。部下の適切な行動に対してはっきりとほめ、不適切な行動に対してはっきりと短く叱る。このように、わかりやすい指導を受けると、部下は「適切な行動を増やし、不適切な行動を減らしていこう」と動機づけられます。
部下の不適切な行動に気づいた時には、上記の3つの叱り方のポイントで相手の心に伝わるように、ぜひ注意をしてみてください。