石川尚の「気になるデザイン」
『原点』こころのデザイン 日本の傑作椅子 写真集10
(引用:別冊商店建築78「日本の木の椅子」,p88,商店建築社発行) |
世界に通用した日本の折り畳み椅子、「ニーチェアX」
木製の肘掛けが先端にあるX型に交差した脚、宙に浮かしていかにも心地よく人を支えるラインがカタチとなった座と背。
安価で、丈夫で、軽く、座り心地もよく、カッコイイ……まさに「つかえる安楽椅子(イージーチェア)」である。
この「ニーチェアX」、生まれは1970年。徳島県で明治からの剣道防具製造業の3代目にとして生まれた新居猛氏がデザインした。
戦後、 GHQにより剣道が禁止され、大工仕事等をしていたときに写真でしか見たことのなかった映画監督が座るディレクターチェア(折畳式)を記憶をたよりに製作したのが最初の椅子。
以来、折り畳み組立て椅子を作り続けた新居猛氏。
折り畳むことでコンパクトになり、通常の椅子1脚と同一容積で数脚分の輸送が可能となる。何よりも輸送費を安く押さえる為に折り畳み椅子のデザインにこだわり続けた結果が「ニーチェアX」を生んだ。
Xに交差するU形脚パイプによって折り畳む「ニーチェアX」のシステムは、世界6カ国のパテントを取得し、輸出を含め年間80万本もの「ニーチェア」を徳島から出荷しているという。ニューヨーク近代美術館MOMAの収蔵品に選定され、日本グッドデザイン賞にも輝いている逸品なのである。
ただ、この椅子、物議を醸(かも)したのが「コピー問題」。
国際的にも評価を得た「ニーチェアX」は、世界中で真似された。パテント期限が切れた頃、海外で作られた安価な粗悪品を通信販売のカタログに載せた業者を相手に新居氏は著作権侵害で京都地裁に訴えたが、裁判所は却下。
著作権法上にはデザインという文言はなく、また、美術という鑑賞対象となる純粋美術のみをいい、鑑賞を主眼としない実用量産品は美術には当たらない……が、その理由。つまり、デザインは美術に属さないから著作権は成立しないと判断されたわけだ。
その後、大阪高裁、最高裁へ上告し、1991年最高裁判決でもデザインの著作権は認められなかった。残念だが、デザインも音楽や美術同様、人が鑑賞し、心地よい気分になるモノが山ほどある現状を理解デ・キ・ナ・イやからが判断を下していることを露呈していることにほかならない。
現在でも著作権問題は様々なジャンルで起きているが、こと椅子デザインにおいては、海外も含めコピー続出となった最初の日本の椅子なのである。
■ニーチェアX(1970年)
・デザイン:新居 猛
・製造/販売:ニーファニチャー
・サイズ :W620 D770 H840 SH330
・素材 :ゴム材(ラッカー塗装)
石川尚の気になる「デザイン」
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