念入りな計算に基づいた、緻密なラインと面構成
具体的に、4つの項目を通じて、up! の素晴らしさを語ってみよう。
まずは、デザインだ。いっけん、何の変哲もない、とてもシンプルでクリーンな2ボックスシルエットである。これなら、国産メーカーのデザイナーにだってできそうだ、と思ってしまう。けれども、じっくりと眺めてみれば、そこに、念入りな計算に基づいた、緻密なラインと面構成があることに気づく。
たとえば、小さいのにどっしり構えてみえるワケは、4隅に置かれたタイヤを膨らんだフェンダーが覆って、破綻なく他のすべての面とつながっていて、まるで“一枚の皮”で、ラッピングしたようにみえるからだ。
たとえば、走らせると楽しんじゃないかと思わせるワケは、ノーズがすーっときれいに低められていて、そこからルーフへと向かった風が、ボディエンドでスパーッと解放されるように見えるからだ。
たとえば、安いのに安っぽく見えないワケは、マスクやリアにユニークな、けれども“過ぎない”ディテールデザインを施して、他のクルマとは違うということを、さりげなく、けれども強い意志で明確に表現しているからだ。
シンプルなのに、見どころがいっぱい。しかも、それらの構成において、全てのつじつまがあっているという凄さ。シルヴァ(デザインディレクター/ワルター デ シルヴァ氏)旗下のVWデザインの、正に真骨頂というべきだろう。
ダッシュボードを横断する“ダッシュパネル”が特徴的なインテリア。パネルはムーブ アップ! はシボ入りのベージュとブラックペイント、ハイ アップ! はボディ同色仕上げとなる。ラゲッジ容量は251~951リッター
そんなエクステリアと見事に調和した、クリーンでポップなインテリアも素晴らしい。実際の機能性はもちろんのこと、感覚的にも使いやすさを訴えかけるデザインだ。はっきり言ってマテリアルは安物だし、たいして新鮮さもないわけだけれども、コクピットはこうであるべきだという強いアピールが隅々にまであって、思わず“いただきます”、とカンシャしながら走り出してしまったほど。
細かくみれば、軽自動車でも標準装備だろ? と思うような機能が省かれていたりする。オートエアコンはないし、後席にはパワーウィンドウがない。運転席から助手席の窓を下げることだって、できない。トリムレベルも原始的……。安く作るための割り切りは、いたるところに見受けられる。