近ごろ増えてきた「現代型不眠」とは
体内時計が昼夜のリズムに合わないと、睡眠障害が起こります
ヒトの体には体内時計があり、1日のリズムを刻んでいます。私たちは長い歴史を通して、昼間は活動して夜に眠るというパターンを身につけました。しかし、パソコンや携帯電話、テレビなどのメディアや生活環境による夜間の光環境の変化、休む間もなく動く24時間社会、加速する高齢化社会などにより体内時計が乱れて、不眠を訴える人が増えています。このような、体内時計の不調によってもたらされる不眠を「現代型不眠」と呼びます。
これまでの不眠症治療薬
不眠症の治療には、主に睡眠薬が使われます。現在、広く医療機関で処方されるベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、脳神経の興奮を抑えるガンマ・アミノ酪酸(GABA)の働きを助けて眠気を強めます。これらの睡眠薬は、作用時間の長さによって超短時間型、短時間型、中間型、長時間型の4種類に分けられます。
寝つきが悪い入眠障害では超短時間型や短時間型が、夜中に目が覚めてしまう中途覚醒の場合は中間型が、朝早くに目が覚めてしまう早朝覚醒タイプには長時間型が効果的です。熟睡感が乏しい人には、深い眠りやレム睡眠を減らしにくい非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が使われます。
どんなに良い薬でも、副作用がない薬はありません。これまで使われてきた睡眠薬の主な副作用として、持ち越し効果や記憶障害、依存症、離脱症状が知られています。持ち越し効果とは、睡眠薬を飲んだ翌日まで薬の作用が残ることです。日中の眠気や集中力・判断力の低下、脱力、ふらつき、倦怠感などが現れます。
自動車の運転や高いところでの作業を行う場合には、事故を起こす可能性があるので注意が必要です。また、睡眠薬を飲んだ後に記憶が残らなかったり、ふらついて転んだりすることがあります。睡眠薬を飲んだら、なるべく早く布団に入って眠ることが大切です。
全く新しいタイプの睡眠薬「ロゼレム錠」
2010年から日本でも、メラトニン受容体作動薬が使えるようになりました
1つは「恒常性維持機構」とよばれるもので、脳に睡眠物質がたまることで眠くなるメカニズムです。睡眠物質は目覚めている時間に比例して増えるので、長く起きていると眠気が強くなります。カフェインをとると目がさえるのは、カフェインが睡眠物質の働きをブロックするからです。
もう1つのメカニズムは、「体内時計機構」です。体内時計は夜になったら眠くなり、朝になったら目覚めるというリズムを刻みます。徹夜明けの朝は眠いはずなのに、なぜか頭がすっきりして覚醒度が上がります。これは、脳に睡眠物質がいっぱいたまっているにもかかわらず、体内時計の働きで脳と体が朝モードになるからです。
最近、体内時計に働きかけて睡眠と覚醒のリズムを改善する薬が使えるようになりました。武田薬品工業が出しているメラトニン受容体作動薬・「ロゼレム錠」です。ロゼレム錠は、睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」と同じような働きをします。メラトニンは、朝に目覚めて光を浴びてから14~16時間たつと分泌されて、その1~2時間後に眠くなります。そして、翌朝に光を浴びると、メラトニンが急速に減って眠気が少なくなります。
メラトニンには、眠気を強くする働きと、体内時計を調整する働きがあります。ロゼレム錠とこれまでの睡眠薬を比べると、布団に入ってから寝入るまでの時間に明らかな差はありません。ロゼレム錠には体内時計を調整する働きも期待されるので、体内時計の不調からくる不眠の症状だけではなく、根本的に原因にアプローチするタイプの治療薬として期待されています。
ロゼレム錠は、これまでのベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬とは作用の仕方が全く違うので、ふらつきや記憶障害、依存性などの副作用が少なく、長く飲んでいても睡眠効果が弱くなりにくいという特長があります。ただし、ロゼレム錠はゆっくり効いてくる薬なので、しばらく飲み続ける必要があります。
生活習慣を見直して体内時計をメンテナンス
朝の太陽の光は、体内時計をリセットしてくれます
現代型不眠と体内時計に関する情報を発信しているサイト「体内時計.jp」では、「体内時計を整える12か条」として以下の項目を上げています。一度にすべてはできませんから、できることから1つずつ習慣づけていきましょう。
- 朝起きたらカーテンを開け、日光を取り入れましょう
- 休日の起床時刻は平日と2時間以上ズレないようにしましょう
- 1日の活動は朝食から始めましょう
- 昼寝をするなら、午後3時までの20~30分以内にしましょう
- 軽い運動習慣を身につけましょう
- お茶やコーヒーは就寝4時間前までにしましょう
- 就寝2時間前までに食事を済ませましょう
- タバコは就寝1時間前にはやめましょう
- 就寝1~2時間前に、ぬるめのお風呂に入りましょう
- 部屋の照明は明るすぎないようにしましょう
- 寝酒はやめましょう
- 就寝前のパソコン、テレビ、携帯電話やテレビゲームは避けましょう