火元の責任の有無にかかわらず、類焼先を補償する!?
そもそも失火元に賠償責任は問えないが……
法律上は上記のような定めがあるのですが、にもかかわらず、いくつかの火災保険には「類焼損害補償」があります。これは火元が隣家に与えた類焼損害について、被害者が損害を受けた住宅や家財を新たに買い入れる金額(=再調達価額)を基準に補償するというもの。前述のように、法律上は重大な過失による火災でない限り、火元は類焼先への賠償責任を免れます。ところがこの補償は、火元の賠償責任の有無を問わず、被害者に補償をするというのです。
法律上、賠償義務が生じないにもかかわらず補償するということは、類焼先への見舞金みたいなもの?と思うかもしれませんが、そういうことではありません。原状回復に必要な金額、つまり延焼先の建物や家財の再調達価額以上には、保険金は支払われないしくみとなっています。さらに、支払われる保険金は、類焼先が加入していた火災保険の保険金を差し引いて算出されることになります。
具体的にみてみましょう。たとえば、類焼先の建物の再調達価額が2000万円とします。そこで類焼先が、
●ケース1:2000万円の火災保険に入っていた場合
●ケース2:1000万円の火災保険に入っていた場合
●ケース3:火災保険に入っていなかった場合
それぞれ、火元の類焼損害補償から、どのように支払われるのでしょうか。
ケース1の場合、類焼先の火災保険から、再調達価額ぴったりの2000万円が支払われます。したがって、再調達価額から類焼先の保険金を差し引いた額は、
●ケース1
建物の再調達価額2000万円-類焼先の火災保険金2000万円=0円
となり、類焼損害補償からの補償はありません。
ではケース2。こちらは、建物の再調達価額が2000万円であるにもかかわらず、その半分の1000万円しか火災保険が掛けられていません。となりますと、
●ケース2
建物の再調達価額2000万円-類焼先の火災保険金1000万円=1000万円
ということになり、再調達価額と火災保険との差額である1000万円が類焼損害補償として類焼先の隣家に支払われます。
このように実態よりも保険金額が相当額低くなっているケースは、現在よりも建築費の安いころに建てた住宅に、長期で火災保険の契約をした場合によく見受けられるパターン。つまり、当時は1000万円で新築できた住宅ですが、現在は物価が上がり、同等の住宅を再築するには2000万円かかる、といった場合です。
そしてパターン3。いうまでもありませんが、以下のようになります。
●ケース3
建物の再調達価額2000万円-類焼先の火災保険金0円=2000万円
つまり、類焼損害補償は、隣家が住宅再築に不足する分を補てんする性格の補償ということ。ですから、隣家が住宅の実情にマッチした火災保険に加入していれば、類焼損害補償はなされませんし、あるいは隣家が火災保険に入っていない、あるいは入っていても補償が不足するような場合にのみ、不足分についてのみ補償がなされるといった具合です。自身の失火により、迷惑をかけた隣家に一定のお金を支払うというような、慰謝料的性格の補償ではないので、勘違いしないようにしましょう。なお、類焼先が何軒もある場合でも、それぞれの類焼先へ補償することができます。ただし、すべて合算して補償限度額が上限で、この補償限度額は1億円程度としている保険会社が多いようです。
ちなみに、多くの火災保険には「失火見舞費用」というものもあります。これは、火災保険にあらかじめセットされている費用保険金の一種で、こちらは純粋に、類焼先への見舞金です。およぼした損害の程度にかかわらず、20万円程度など一定の金額が類焼先に支払われるといったものになっています。
対象となるのは「居住用」の建物や家財のみ
類焼損害補償の補償対象となるのは、類焼先の居住用住宅及び生活用家財に限られています。事業用建物や什器備品など事業用物件は補償対象となっていません。また、一組30万円超の貴金属や骨とう品等、現金・有価証券なども対象外になります。
一見、隣家とのトラブルを解決してくれる優れもののようにとらえがちな「類焼損害補償」ですが、相手の損害の実情に応じて補償がなされるものではありませんし、補償される金額や対象物も限られている補償、ということになります。
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