世界遺産/ヨーロッパの世界遺産

リラ修道院/ブルガリア(2ページ目)

リラ修道院は、荘厳さとキュートさを併せ持つ不思議な世界遺産。城壁を兼ねる僧院にぐるり取り囲まれた姿は要塞のようだが、中にある教会は白黒と紅白のストライプで彩られ、内部は天使や悪魔を描いた極彩色のフレスコ画で覆われている。今回はブルガリア正教会の総本山、世界遺産「リラ修道院」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

素朴でキュートな修道院

僧院から眺めた聖母教会

僧院から眺めた聖母教会。スラヴ-ビザンツ式の5つのドームが特徴的。その下の列柱廊はスペインや北アフリカのムーア建築を思わせる

聖母教会の全体像

要塞のような全体像に反して軽快でポップな聖母教会

リラ修道院はブルガリア正教会の総本山。いまでも多数の信者がここを訪れる。聖母教会で真剣に祈りを捧げているブルガリア人を見ていると、この教会がとても素朴でキュートに見えてくる。

リラ修道院の名前の元になった修道士イヴァン・リルスキーは教会の腐敗に絶望し、この深い森の中に隠遁して修行に励んだという。「正しく生きたい」という思いがこの修道院を切り拓いた。

 

馬に乗るガイコツと海坊主のような悪魔

馬に乗るガイコツと海坊主のような悪魔。まるで地獄絵図

人々を誘う悪魔の絵や、龍を倒す天使たちの姿はきっとその思いを素直に描き出したもの。「早く寝ないとお化けが出るよ」「悪いことをすると悪魔に呪われちゃうよ」、そんな具合に孫を諭すおじいちゃんやおばあちゃんの姿が思い浮かんでくるようだ。

神の権威を威圧的に伝える大聖堂とはまったく異なり、山の中で素朴な思いを伝えるリラ修道院。この修道院は約500年にわたるオスマン帝国の支配にも屈せず、キリスト教を伝えるブルガリア人の心のよりどころとしてあり続けた。

 

各地の建築様式を集めたリラ修道院の聖母教会

背後から見た聖母教会

背後から見た聖母教会。紅白のストライプというとケバケバしく感じるが、この聖母教会は落ち着いていてとてもキュート

教会のフレスコ画も独特だが、その外観も特異だ。

天井のタマネギ型ドームはロシアでよく見られるクーポル(クーポラ)だし、アーチを多用した造りは北アフリカや中東でよく見るイスラム建築の列柱廊を思わせる。ストライプはイタリアなど南ヨーロッパによくある柄。もっともここまで強烈なストライプは見たことがない。

ストライプのアーチが特徴的な僧院部

ストライプのアーチが特徴的な僧院部。観光客でもここに宿泊することができる

これはきっとバルカン半島の特殊な状況がそうさせているのだろう。

ブルガリア人はロシアと同じスラヴ系で、公用語であるブルガリア語はロシア語と同じキリル文字を使用する。でも、かつてはローマ帝国の支配下にあり、東ローマ帝国(ビザンツ帝国)の版図だった時代もあってラテン文化も伝わっている。宗教については正教会の総本山コンスタンチノープル(現在のイスタンブール)に近かったこともあって、9世紀にキリスト教が国教化したが、14世紀にオスマン帝国に支配されるとイスラム教が広まった。

 

ロシア、南ヨーロッパ、中東の文化が複雑に交錯して生まれたブルガリアの独特な文化。こんなところからも、それぞれのよいところを素直に取り入れるとても素朴な思いが伝わってくる。
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