予防接種・ワクチン/その他の病気の予防接種

おたふく風邪ワクチンの予防接種・副作用・時期

【医師が解説】大人がなると重症化しやすい「おたふく風邪・流行性耳下腺炎」。発症後は特効薬がなく、膵炎、精巣炎・精巣上体炎(睾丸炎)、卵巣炎などの合併症リスクがあります。ムンプスワクチンの予防接種は、日本では任意接種です。おたふく風邪の原因、症状、ワクチン接種の効果と副作用について詳しく説明します。

清益 功浩

執筆者:清益 功浩

医師 / 家庭の医学ガイド

 

おたふく風邪(流行性耳下腺炎)とは

おたふく風邪説明図

耳の近くの耳下腺、顎の下の顎下腺という唾液腺が腫れます

おたふく風邪の正式名称は「流行性耳下腺炎」と言います。耳の前下にある唾液腺である耳下腺が腫れることで、丸顔のおたふく面のような輪郭になってしまうことから、一般的には「おたふく風邪」と呼ばれています。
 

おたふく風邪の原因ウイルス・潜伏期間・主な症状

おたふく風邪の原因は、ムンプスウイルスです。ムンプスウイルスが体内に侵入して、2~3週間後に、風邪のような咳、鼻水、発熱と耳の前下にある唾液腺・耳下腺、下あごの下にある唾液腺・顎下腺(がっかせん)が腫れます。この唾液腺の腫れは左右ともに腫れることが多く、腫れは1週間ぐらいで引きますが、合併症があるためその後も安心はできません。
 

おたふく風邪の合併症……精巣炎・ムンプス難聴など

おたふく風邪患者の合併症には、膵炎や精巣炎・精巣上体炎(睾丸炎)、卵巣炎などがあり、約10%ぐらいに髄膜炎、約0.2%に脳炎が現れることがあります。また最近では、おたふく風邪に罹った1,000人のうち1人に難聴が起こり、罹患した場合の重症度は自然治癒が期待できないほど重いと言われています。

続いて、ワクチン接種について詳しく解説していきますが、これらの合併症リスクを踏まえると、おたふく風邪は罹患する前の予防が特に重要といえるのです。

なお、おたふく風邪の原因や症状、合併症については、「おたふく風邪(流行性耳下腺炎)の症状・写真・治療法」に詳しくまとめてありますので、宜しければご参照下さい。
 

おたふく風邪予防に有効なムンプスワクチンの予防接種

おたふくかぜワクチン

おたふく風邪ワクチン(第一三共株式会社提供)

ウイルスの毒性を弱めた生ワクチンで、ニワトリの細胞を使って作られています。接種量は0.5mlを1回、皮下に注射します。

■接種頻度と適正年齢
日本では1回接種になっていますが、基本的には2回接種が勧められています。接種間隔は「MRワクチン」と同様、5年程度空けて接種した方が望ましいでしょう。

1歳過ぎたら接種可能です。日本では接種回数の記載がなく、1回接種と考えられているようですが、まずは1歳過ぎで集団生活をする前に接種が望ましいとされています。おたふく風邪の罹った報告が多い年齢は、4~5歳、2~3歳、6~7歳の順です。なかには、幼少期にムンプスワクチンを1回接種したにもかかわらず、大学での検査で陰性となり、再度接種した方もいるかもしれません。

■ワクチン抗体陽性率とおたふく風邪発症率
ワクチンでも、時に免疫がつかない場合があります。抗体陽性になる率は80~100%と言われて、徐々に低下する例もあるので、実際に防御として世界的に言われている効果は75~91%です。

単独で接種する方が抗体陽性率は上がるのですが、多く行われている麻疹、風疹、おたふく風邪を混合したMMRワクチンでも抗体陽性になる率は73%、2回接種で86%になると言われています。なお2020年現在、日本では以前の副作用の問題(MMRワクチンによる無菌性髄膜炎の発生)からMMRワクチンは製造されていません。今後、副作用の少ないMMRワクチンが作られる予定です。特に有効性と副作用を考慮している状況です。

アメリカなどでは、日本で開発された水疱瘡のワクチンを混合し、MMRVワクチンの2回接種を定期接種として採用しています。おたふく風邪に対するワクチンとしては、アメリカではMMRワクチンの2回接種後のおたふく風邪の発症は年間300人以下になっています。一方、日本では任意接種で接種率が悪く、30~40%程度であると考えられています。そのためおたふく風邪の患者は、2005年の流行のピーク時には135.6万人(約1000人/人口10万人)、流行の底であった2007年でも43.1万人(約300人/人口10万人)に上っています。先進国の中でおたふく風邪の患者発生が人口10万人あたり10人を超えている国はほとんどありません。

2018年の論文によると世界でおたふく風邪ワクチンを定期接種として施行している国は122国で、その多くの国が2回接種するシステムになっています。しかし、2020年現在、日本では、任意接種であるために、1回接種のみであったりして、2回接種システムになっていないのが現状です(日本小児科学会を始めとした学会では2回接種を推奨しています)。

おたふく風邪を接種する年齢によって副作用も異なり、年齢が高くなるほど無菌性髄膜炎が発生する率が増えるために、3歳までの接種が推奨されています。
 

おたふく風邪ワクチンの副作用・予防接種のリスクの考え方

発熱や耳下腺の腫れが軽く見られることもありますが、ムンプスワクチンの副作用は比較的少ない方です。とは言っても、ゼロではありませんので起こり得る副作用を説明します。

まず、アレルギー反応の重篤なアナフィラキシーが発現することがありますが、こちらは適切に治療すれば問題ありません。ムンプスワクチンはウイルスを弱毒にしたもので、毒性を全くゼロにはできていないため、1,200人に1人、無菌性髄膜炎を発症する恐れがあります。しかし前述したように自然発症の場合、10~20人に1人が罹患するわけですから、それに比べれば頻度は圧倒的に少ないことが分かるでしょう。また、ワクチンによる難聴は非常にまれで、数10万人に1人程度と言われており、こちらも自然発症と比較すると発症の可能性は低いと言えます。予防接種による難聴と自然発症による難聴のリスクを比較すると、やはりワクチンで正しく予防することの方がリスク低減に有効と言えるでしょう。

自然発症後のリスクに比べると、副作用からくる発症や合併症のリスクがはるかに少ないことが、世界中で予防接種が定期的に行われている背景とも言えるのです。そして、世界からの往来が増えると、低い接種率では、おたふく風邪の発症が増える可能性があります。麻疹は国外からの患者から感染が拡大する事案が見られています。一刻も早い定期接種が望まれます。

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