予防接種・ワクチン

水銀なしの「チメロサールフリーワクチン」のメリット・デメリット

【医師が解説】インフルエンザを始めいくつかのワクチンには、防腐剤として「チメロサール」という水銀が使われています。安全性が高く副作用リスクも低く、刺身一人前分よりも少ない量の水銀ですが、それでも心配という方もいます。水銀を含まない「チメロサールワクチン」のメリット・デメリット・注意点について解説します。

清益 功浩

執筆者:清益 功浩

医師 / 家庭の医学ガイド

ワクチンに含まれる水銀「チメロサール」は危険? 安全? 人体への影響は

チメロサールフリーワクチンのメリット・デメリット

チメロサールフリーワクチンのメリット、デメリットとは?

ワクチンの中には保存剤として「チメロサール」という水銀を含むものがあります。水銀と言っても、細胞毒性のある「メチル水銀」とは全く別のものです。量としてもメカジキの刺身の一人前分に含まれる水銀よりも、はるかに少ない量です。

チメロサールの安全性については「インフルエンザワクチンの水銀・チメロサールの影響」をあわせてご覧いただきたいのですが、チメロサールは少量で殺菌作用があるため、よく保存剤として使用されます。チメロサールは、エチル水銀とチオサリチル(thiosalicylate)というものに分解されます。「エチル水銀」は、炭素と水素を含む化合物で、有機水銀です。水銀と聞くと何か恐ろしいものと思われるかもしれませんが、エチル水銀の副反応はアレルギー反応のみで、中毒症状などの報告はありません。とはいえ、人体に与える影響に関しては、現在も科学的に100%明らかではない部分もありますので、中には不安に思われる方もいるかもしれません。

医学的には心配する量ではないのですが、それでもチメロサールを含むワクチンを避けたい方のために、「チメロサールフリーワクチン」のメリット・デメリットについて解説します。
 

チメロサールフリーワクチンとは何か

チメロサールフリーワクチンとは、その名の通り、チメロサールを含んでいないワクチンです。保存剤が入っていませんので、他のワクチンのように保存がききません。1バイアルを1人のみに使用するか、シリンジタイプのワクチンとして使用するかになります。1バイアルで複数回針を刺すこともなく、複数の人に使用することもありません。
 

チメロサールフリーワクチンが選べるワクチン・対応する病気

そもそも生ワクチンにはチメロサールが含まれていませんので、その意味ではどれもチメロサールフリーワクチンです。麻疹ワクチン、風疹ワクチン、おたふくかぜワクチン、結核に対するBCG、黄熱ワクチン、ロタウイルスワクチン、水痘(水疱瘡)ワクチンはチメロサールの心配をする必要はありません。

不活化ワクチンでは、日本脳炎ワクチン、肺炎球菌ワクチン、狂犬病ワクチン、インフルエンザ桿菌(Hib)ワクチン、子宮頚がんワクチンはチメロサールフリーワクチンです。チメロサールが入っている場合と入っていない場合があるのは、インフルエンザワクチン、B型感染ワクチン、ジフテリア・百日せき・破傷風・ポリオ4種混合(DPT-IPV)ワクチンです。
 

チメロサールフリーワクチンのメリット・選ぶべき人

繰り返しになりますが、チメロサール自体は安全性が高く、人体への影響も少ないと考えられていますので、医学的にチメロサールフリーワクチンでなければならないケースはあまりありません。

ただ、含有されているものが少ないほど、安心材料にはなるでしょうから、胎児への影響や長期的影響を考えないといけない妊婦や小さな子どもなど、ワクチンに不安がある方には、チメロサールフリーワクチンが、精神衛生上、望ましいのかもしれません。

しかし、これもバランスです。本当に恐れるべきは、ワクチンで予防すべき病気ですが、チメロサールフリーワクチンは常にあるわけではないため、これを待ちすぎて適切な接種のタイミングを逃してしまう方が危険です。チメロサールフリーワクチンでないと危険というケースはないので、供給状況などを考慮して、接種する必要があります。
 

チメロサールフリーワクチンのデメリット・注意点

保存剤が含まれない方がよいという考えもあるかもしれませんが、チメロサールが入っていないことで細菌が繁殖してしまい、そのワクチンを接種してしまうような危険性は回避しなくてはなりません。日ごろ口にしている食品にもさまざまな保存剤が含まれているにもかかわらず、ワクチンだけは保存剤がないものを選ぶというのも合理的ではないのではないでしょうか。

また、チメロサールフリーワクチンは個別に使用するため、通常のワクチンよりもコストと手間と時間がかかります。任意接種の場合、値段は自由に決められますので、チメロサールフリーワクチンを選択する場合には差額分は個人負担になることがあります。インフルエンザワクチンのように短期に多くの人に接種する必要があるものは、病院やクリニック側も在庫を確保する必要がありますし、効率よく接種しないと多くの人にスピーディーな接種が難しくなってしまいます。その意味でも、すべてをチメロサールフリーにすることは難しくなるのが現状です。
 

納得できる安全性・打ち遅れのリスク・コストのバランスを考え判断を

基本的には、チメロサールフリーワクチンが簡単に選べる状況なら、メリット・デメリットの実際の部分を理解した上で、好みで選択しても良いでしょう。特に妊婦や小さな子どもで、ワクチン接種のリスクが不安が仕方ないという方は、精神的な不安感軽減の意味も含めてチメロサールフリーワクチンを選ぶとよいかもしれません。

しかし繰り返しになりますが、チメロフリーワクチンを接種することを優先して病気にかかってしまうリスクを考えると、やはり状況に応じた判断が必要かと思います。また安全性がより高い分、コストはかかりますので、安全性とコストでいかにバランスを取るのかも重要です。一番良いのは、全ての人が安心できる安全性がある、低コストで、安定供給できるワクチンですが、現時点では、バランスを見ながら判断していくことが大切だと思います。
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