「異邦人」へ愛をこめて:映画『宇宙人ポール』
パッと見の印象は全く異なるのに『人生はビギナーズ』とよく似た世界観を感じさせる名作映画をもう1本、ご紹介します。現在公開中の『宇宙人ポール』という作品です。『スーパー8』が『未知との遭遇』+『スタンドバイミー』の正統的なオマージュだとしたら、『宇宙人ポール』は『E.T.』をパロディにした抱腹絶倒のコメディ…に一見見せかけておきながら、『E.T.』以上の深くて素敵な(大人な)贈り物でした。
主人公はサンディエゴの「コミコン」(オタクの一大イベント)を楽しむためにイギリスから来た「モテない筋」の2人組、クライヴ&グレアム。宇宙モノの漫画が大好きな2人は、アメリカのUFOスポットをキャンピングカーで回るのですが、偶然、本物の宇宙人に出会います。宇宙人はポールと名乗り、流暢に英語をしゃべります(2人よりもアメリカン)。最初は驚いた2人もすぐに意気投合し、ポールの頼みを聞いて、ワイオミング州へと向かうのです。しかし、彼らを追う男たちの魔の手がすぐそこに…果たしてポールは『E.T.』のようにお家に帰れるのか…
ストーリーはこんな感じですが、ポールがあまりにも下世話なキャラクターだったり、モーテルの経営者の娘ルースが「ダーウィンをぶち殺す」というTシャツを着るほどの(笑)極端なクリスチャンだったり、ヘンなキャラ満載で、抱腹絶倒のドタバタ珍道中になっています。
そんな珍道中の中には、こんな「ゲイネタ」もありました。
クライヴとグレアムはサンディエゴのホテルで間違えてダブルベッドを手配され、ルームサービスを届けに来たおじさんが、てっきりゲイカップルだと思って「新婚おめでとう」と言うのです。(ここから「サンディエゴが新婚ゲイカップルのハネムーン先として人気であり、地元の人も大いに歓迎している」ということ、「リアルなゲイの中には太っていたりむさくるしい見た目をした人もいる」のをみんな知っている、ということが読み取れます)
それから、エイリアンを観光で売り出している小さな町のカフェで(なんとママがジェーン・リンチ=『glee』のスー先生。オープンリー・レズビアンで、同性婚もしました)2人がくつろいでいると、典型的な田舎者でイカつい2人組の男に「お前たちはゲイか」といちゃもんをつけられるというシーンがありました。(これも、ホモフォビックでゲイを殴ったり殺したりするのがどういう人たちかというステレオタイプを描いていたわけです)
この映画の登場人物はほとんど全員がはみだし者で「異邦人」(主人公の二人がそもそもオタクだし、外国人です)。ちょっと変わっていたりはするけど、みんなとても魅力的で、いい奴なのです。直接ゲイが登場するわけではないですが、ゲイネタが頻出し(特に不快ではありませんでした)、全体としてマイノリティに光を当てて生き生きと輝かせる映画になっていました。
この映画には汚い言葉がたくさん出てくるし、下品だったり、ステレオタイプなネタもたくさんあります。でもそれは差別という感じではなく…何と言うか、仲がいいからこそお互いのダメなところも笑っちゃえるノリってあるじゃないですか、ああいう感じです。大事なのは「友達になること」だよというメッセージに共感。すごくいい映画だと思います。
ゲラゲラ笑いながら観れて、最後には思わず涙しちゃうような極上のエンタメ作品であり、同時に、とても深い真実が描かれている作品でもありました。『人生はビギナーズ』と併せてぜひ、ご覧ください。
『宇宙人ポール』Paul
2011年/アメリカ・フランス・イギリス/監督:グレッグ・モットーラ/出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、ジェイソン・ベイトマン、クリステン・ウィグ、ビル・ヘイダー、ブライス・ダナー、ジョン・キャロル・リンチ、シガニー・ウィーバーほか/配給:アステア、パルコ/全国でロードショー公開中
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