「分かち合う」という言葉
デュカス氏が最も繰り返し述べた「分かち合う」という言葉。「私はアーティストではなく、職人である。料理人はどのように食材を尊重していくか、その料理を食べるお客さんにどう伝えるかをいつも考えている。絶えず生産者へのオマージュの精神は忘れない」と力強く話し、「生産者が苦労して大事に育てたものを料理人が大事に調理をすること。調理過程のすべてが大切だが、その前提にあるのが食材の風味を変えないことである」料理は短時間の喜びであり、形に残らず消えてなくなる。だが、たくさんの愛情が込められた旬のものや地元の食材を使った料理をゆっくりと味わい、友達や家族と共に喜びを分かち合う。それが適った料理は時間と記憶の間で長い長い余韻をもたらすだろう。食べ手と作り手、両者が尊重し、分かち合うことで私たちの心はより豊かになれる。
自然、素材、料理を静かに熱く語る
最後にアラン・デュカス氏からレシピを作るときのアドバイスがあった。
「レシピはあくまで参考です。珍しい輸入品を買うよりもより新鮮な食材を使うことです。身近な食材を代用して自分らしい工夫を加えてみてください。旬のもの、地元のもので愛情を込めてつくること、それが一番重要なポイントです。そして、家族や友人とゆっくり味わうこと。そうすることで、喜びや楽しみを分かち合うことができるでしょう」
パリのアランデュカスにて、ラングスティーヌのキャビア乗せ、そしてスープ
世界に何店舗もレストランを経営するビジネスマンとしての顔が目立つデュカス氏ではあるが、原点は素材、そして地中海だ。そして私も影響を受けている彼の言葉「記憶-どこに向かっているかを知るためにも、どこから来たのかを忘れてはいけない」。料理人は職人であると同時に突き抜けると哲学者になるのかもしれない。
『アラン・デュカスのナチュールレシピ』
価格/2940円 世界文化社 刊