世界遺産/アフリカ・オセアニアの世界遺産

聖カトリーナ修道院地域/エジプト

紀元前13世紀、神がモーセに啓示を与え、十戒を刻み込んで与えたという伝説の聖地シナイ山。3世紀には天使たちが聖カトリーナの遺体をここに運び込んだという。今回は、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の聖地としていまも多くの巡礼者が祈りを捧げるシナイ山と、その麓にある聖カトリーナ修道院を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

神が舞い降りた聖地『聖カトリーナ修道院地域』

城壁に囲われた聖カトリーナ修道院

堅牢な城壁に囲われた聖カトリーナ修道院。ユダヤ教、キリスト教の聖地であるだけでなく、イスラム教創始者ムハンマド(モハメッド)自ら聖地と認め、イスラム帝国下ではここにモスクも建てられた ©牧哲雄

神がモーセに啓示を与え、十戒を刻み込んで与えたという伝説の聖地シナイ山。ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の聖地として、いまでも多くの巡礼者がこの地を訪れ、祈りを捧げている。

今回はシナイ山麓一帯を登録したエジプトの世界遺産『聖カトリーナ修道院地域』を紹介する。

モーセと映画『十戒』と『レイダース/失われたアーク<聖櫃>』

標高2,285mのシナイ山頂

神が降臨したという標高2,285mのシナイ山頂。ジェベル・ムーサ=モーセの山とも呼ばれているが、本当に聖書がいうシナイ山なのかは議論がある ©牧哲雄

まずは『旧約聖書』の『出エジプト記』を紹介しよう。

紀元前13世紀前後、ヘブライ人(古代ユダヤ人)はエジプトのファラオの下で奴隷労働者として働いていた。モーセはふとしたことからエジプト人を殺してしまい、シナイ山麓の砂漠地帯に逃げて羊を飼って暮らしていた。

死の砂漠が広がるシナイ半島

岩石砂漠が広がるシナイ半島。こんな景色を見ていると、ナイル川とその周辺の土地がいかに貴重だったかよくわかる

ある日モーセが羊を追っていると柴が燃え上がり、炎の中に天使が現れてこう告げる。「ヘブライ人を乳と蜜の流れる地カナンに導きなさい」。

ヘブライ人はモーセを指導者にエジプトからの退去を図るが、労働者を失いたくないファラオは認めない。神はこれに怒り、水を血に変え、ヒョウを降らせ、病気を流行らせ、長男を病死させるなど、エジプトに「十の災い」をもたらして戒める。

ようやくファラオはヘブライ人を解放するが、60万人が退去したあとで軍を派遣し、彼らを紅海のほとりに追い詰める。絶体絶命の危機にあったが、モーセが杖を振り上げると火の柱が立ち上がり、海がまっ二つに裂けて人々を迎え入れる。ヘブライ人たちはこうして海底を歩いて紅海を渡り、シナイ半島に到着する。

 

モーセは導かれるままにシナイ山を登ると、神が山頂に姿を現して、十の戒めを石に刻みつける。有名な「十戒」だ。

■十戒
    ラクダ

    砂漠では乾燥に強いラクダが交易を担った ©牧哲雄

  1. 私の他に神があってはならない
  2. 偶像を造ってはならない
  3. 神の名をみだりに唱えてはならない
  4. 安息日を設け、聖なる日としなさい
  5. 父と母を敬いなさい
  6. 人を殺してはならない
  7. 姦淫してはならない
  8. 盗んではならない
  9. 偽りの言葉を発してはならない
  10. 隣人のものを欲してはならない

 

神と契約を交わしたこの石板を箱に入れると、その箱が輝き出したという。ヘブライ人たちは「聖櫃(せいひつ)」「契約の箱」と呼ばれる光り輝く箱を先頭に、カナンの地を求める旅を続ける。

この「出エジプト」の様子を描いたのがセシル・デミル監督の『十戒』で、現在行方知れずとなってしまった聖櫃を探し求める冒険活劇が、インディ・ジョーンズ・シリーズ第一作『レイダース/失われたアーク<聖櫃>』だ。

紀元前1000年前後、彼らはついに「約束の地」カナンを定め、ヘブライ王国を建国する。その中心に建てたのがエルサレム神殿だ。以後の話は「聖地エルサレム」の記事を参照してほしい。
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます