仕事も家庭も○×の言葉であふれている
公私ともに日常会話によくあらわれる○×的な言葉
たとえば、ビジネスシーンでは「○○できない人は、使えない人」「○○くらいできなきゃ、生き残れない」など、○×的な言葉がたくさん飛び交っています。IT革命と共に登場した流行語「勝ち組、負け組」の言葉に象徴されるように、現代では働く人の職業観自体が「○×思考」に偏りやすい傾向にあると思われます。
また、生活の場でも○×的な言葉はよく聞かれます。たとえば、教育熱心な親の会話を聞いていると、「せめて○○校くらいでなきゃ、将来はない」という言葉が出てきたりしますし、OLさんたちの会話を聞いていると、「私○歳だし、もう“負け犬”だよね」などと愚痴をこぼしている人もよく見かけられます。
そればかりではありません。男女関係では「私の要求をぜんぶ受け容れて! できなきゃ、愛しているなんていえない!!」と言って、恋人の行動を○×で縛る人もいますし、身近な人間関係でも「あなたこの程度のレベルなの? ダメな人ね」と○×で人の評価をしてしまう人もいます。
「○×思考」の人に多い心の病とは?
「○○できなきゃ終わりだ」と思ってしまいませんか?
しかし、物事には○×では片付けられないこと、○×の結果になりえないことがたくさんあります。さらに、「○×思考」で考えたり、それを人に伝えてしまったりすると、心の病になるほど自分や他人を追い込んでしまうこともあります。
「うつ病」はその典型です。うつ病になると考え方が極端になり、自分への無価値感を抱くようになりますが、これは「○×思考」と大きく関係しています。たとえば、
「あの人はこんなことができてすごい。それに比べて自分は何の価値もない」
「こんなこともできないなんて、もう人間として失格だ」
というように合理的・現実的に物事を考えることができず、なんでも○×で考えてしまうのがうつ病の人の特徴です。これが高じると、「これもできないなら、死ぬしかない」と究極的な段階まで自分を追い込んでしまう人もいます。
また、一部の「パーソナリティ障害」にも、極端な「○×思考」で考えるのが特徴的となる病気があります。
なかでも「境界性人格障害」の人の場合、「見捨てられるのではないか」という強い不安があるために自分自身が安定せず、他人に対しても極端な考えを押しつけてしまうことがあります。たとえば、「自分を100%受け容れてくれる人は味方。それ以外は敵!」というように、他人の好き嫌いが極端な○×になりやすかったりします。
「自己愛性人格障害」の場合には、自分の自尊心を守るために、「○○できないからあいつはダメだ」と他人を○×でこき下ろしたり、地位や名誉、収入などの社会的ステータスが崩れてしまうと、「自分はもうダメだ」と自信が持てなくなり、強い抑うつ状態になったりします。
このように、何気なくとってしまう「○×思考」は、実は心の病と結びつきやすい発想であり、続けていると心が不安定になりやすくなります。