土地活用のノウハウ/土地活用の相続・法律問題

借り手保護……大家さんが避けて通れない法律の話(3ページ目)

先日、最高裁判所で更新料有効判決が出され、2年前の京都地裁判決に端を発した更新料問題にピリオドが打たれました。この問題の背景には消費者契約法がありますので、判決を整理してみましょう。また、国交省、東京都などのガイドライン整備が功を奏し、原状回復トラブルは減っていましたが、また増加しています。この8月に、国交省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)が出ましたので、ご紹介します。

谷崎 憲一

執筆者:谷崎 憲一

土地活用ガイド

原状回復をめぐるルールが決められている

原状回復トラブルにおける国の方針は、国土交通省が平成10年に『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』を発表しました。平成16年にはその改訂版が発表され、退去時の貸主・借主それぞれの費用負担の区分を明確にしています。更に今年8月16日、「再改訂版」が発表されています。

このガイドライン(再改訂版)では、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義し、その費用は賃借人負担としました。そして、経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとしました。

再改訂版では、具体的な事例を次のように区分して、賃貸人と賃借人の負担の考え方を明確にしました(参考図参照)。
A : 賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても、発生すると考えられるもの
B : 賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられ
   るもの(明らかに通常の使用等による結果とは言えないもの)
A(+B) : 基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損
   耗等が発生または拡大したと考えられるもの
A(+G) : 基本的にはAであるが、建物価値を増大させる要素が含まれている
   もの

⇒このうち、B及びA(+B)については賃借人に原状回復義務があるとしました。
国交省ガイドラインの負担区分

オーナー負担、入居者負担?

敷金を使って修繕を行うことができる前提として、貸し手が部屋の状態のチェックリストを作って、まず入居時に入居者とともに部屋の状態を確認して文書化し、退去時には再び同様のチェックリストを使って入居者とともに部屋の状態を確認し、その上で通常の損耗の範囲を超えて入居者の使い方に問題があったと判断される場合に限り、敷金を使ってその部分の補修を行うことができる、と定めています。

ちなみに善管注意義務とは、善良な管理者の注意を持って自分のものを扱うときと同等の責任を持って、注意して扱う義務のことです。それを怠った時には「善管注意義務違反」とされます。

同じ平成16年には東京都が「賃貸住宅紛争防止条例」を施行し、宅地建物取引業者が原状回復などに関する原則を契約前に借主に書面で説明することを義務付けました。この条例は一般に「東京ルール」と呼ばれています。

また東京都は『賃貸住宅トラブル防止ガイドライン』を発表して、退去時の費用負担の区分をイラストや図表でわかりやすく解説しています。

通常の住み方といっても、人それぞれの認識が異なります。揚げ物が好きな人が毎日料理をしてキッチンの壁がベトついてしまった、あるいは喫煙者が毎日タバコを吸っていて壁にヤニが付着してしまったといった場合は、オーナーから見たら普通でない使い方と感じても、その入居者にとっては当たり前と感じているかも知れません。『賃貸住宅トラブル防止ガイドライン』では、これらについて具体的な判断の基準が図版を使って分かりやすく示されているので、参考にしてみてください。ただし、国交省のガイドラインの再改訂版の公表を受けて、平成23年度中にやはり改訂版が出される予定なので、ご注意ください。

前述したように、入居者はこのような敷金返還問題について、ネットなどで様々な情報を集めていますが、オーナーさんは勉強不足のケースが多く見受けられます。

景気の低迷や人口の減少により、賃貸住宅全体に空室が増え、入居者は「部屋を貸していただいている」意識はなくなってきております。

世代間ギャップもあります。オーナーさんの平均年齢は70歳近くであるのに対して、入居者には学生や20代30代の若者が多く、彼らは、出前の器を洗って玄関先においておくという意識より、お金を払っているんだから、器を洗うのはお店の方、という意識の方が多いのです。

もちろん、通常使用や経年変化の範疇を超えた、入居者による過失の損傷は、請求できます。また、当初は通常の使用による汚れや破損であっても、入居者がそれを放置し、当然すべき手入れをしなかったことが原因で新たな損耗が発生したり、損耗が拡大した場合は、入居者の責任と認めて修繕費を負担させられるケースもあります。

たとえば水をこぼしたことによるシミであれば、日常生活で起こることなのでその補修は貸主負担ですが、こぼれた水を拭かずに放置したためにカビが生えて腐食が進んだという場合は、借主の過失として修繕費用も借主負担となります。

上のケースでは、おそらくきちんと話し合って進めていれば、お互いに納得できる落とし所を見つけられたでしょう。そうしていればおそらく、半額程度の返還で済んだのではないかと私は思っています。
入居者、オーナーさん双方にとっていちばん平和で金銭的にも精神的にも負担の少ないトラブル解決方法は、話し合いです。争いからは憎しみと、嫌悪感と、疲労感しか残りません。

まずは、円満な話し合いという基本的な努力にチャレンジしてください。
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