吟味に吟味を重ねて「感動の酒」を造る
蔵の入り口にはこの看板
造りを見てみよう。
「今年度の米は難しい」と11代目。2010年夏の猛暑の影響らしい。溶けない、味が出ない、アルコールが出にくく、エキス分も少ない、熟成に時間がかかる。それでも、感動していただける酒造りに邁進する。
現在は醸造責任者として働く杜氏、平野明氏
酒造りの中心は、今年37歳という若き杜氏・平野明氏。岩手から来た熱心な若者で、杜氏試験では全国首席合格。杜氏の免許を取る前から福井県杜氏きき酒研究会にて「最優秀賞(県知事賞)」を連続で受賞している天才肌だ。現在、工場長(醸造責任者)であり、団秀氏の技術はもちろん志をも継承している。
●精米
洗米機。とても清潔に保たれている
精米されしばらく置かれた米は洗米に入る。洗米は機械化した。誰がやっても超高品質に仕上がるには手作業より機械という判断。機械が優れている場合は機械化するのがポリシーである。とくに、割れないように“気泡で洗う”(顔を洗うのと同じ)にはこれが一番いい。気泡で洗う部分は特許を取っている。
45キロサイズだが一度に10キロしか洗わない。能力を最大限に発揮しながら糠がキレイに流れるようにだ。しかし莫大な水量がいる。清酒は水が潤沢にあるところでないとできないのはこういう理由だ。使用した水は、簡易精製して地下に戻し、いずれ白山の伏流水になっていく。
●蒸し
蒸し窯にかかっているのが擬似米の袋。一見米が入っているのかと思う
この日見せてもらったのは「擬似米」。プラスティックとガラスでできたものだ。鯖江の基幹産業である「めがね加工」の研磨技術を応用して造られた精巧なもの。精米した米と同じ大きさのものを数種そろえているとか。
よく見ると擬似米。精米した米と同じ大きさだ
「これを一緒に内側、下、側面などに入れて蒸すと微妙な温度ムラをなくし、均一にきれいに蒸すことができる。アナログだけど一番いい。もちろん毎回きれいに洗います」と11代目。
米を入れる袋。シンプルに見えるが、実はいろんなアイディアが盛り込まれている
こんな話は蔵に来てみないと聞けないだろう。なんと日本酒造りとは手間暇がかかるものか。
●発酵ともろみ
タンクの下が逆円錐形
発酵槽は逆円錐形のオリジナル。対流がしやすい形になっている。超高精白だからこの対流が大切になる。外壁が二重になった間部分に水を流し冷却するが、タンクの上中下で温度を変え、自然な対流を起こすシステムだ。
発酵タンク。中では元気に酵母が生み出されている
「櫂棒を入れない。米を潰さない。そうすると雑味がなくなる。超高精白米だとこの気遣いが重要になるのです」と11代目。究極まで磨いた米だからこそのやり方。
もろみタンク。いい香りが漂う
この日、「梵・超吟」(超高精白米使用の銘柄)のもろみを味見する。この時点でなめらかさがありピリピリこない。この時点ですでに旨い。
●搾り
新型やぶた式搾り機の前で
今年2011年から取り入れた新型やぶた式(ボタンになっていて布がすぐはずせる)。
ボタンをはずせば簡単に布を取り出すことができ、きれいに洗うことができる
「袋吊り、首吊り(どちらももろみを袋に入れ、それを吊り下げて雫のようにしたたり落ちる部分のみを集める贅沢な方法)と同じ。
絞りたての新酒。新鮮でおいしいが、この蔵ではこれはまだ半製品だ
槽(やはりもろみの入った袋を積み上げて重力のみで自然に絞る方法)より安定している」という。もちろん、使用後は毎回きれいに洗う。そういう蔵は少ない。この新型やぶたのみを使用する蔵は全国では唯一とか。
●予冷庫
予冷庫に山積みされた出荷を待つ商品たち
出荷を待つ商品が置かれるのは予冷庫だ。絞られた酒はすべて氷温で長期熟成しているので、いきなり外に出すわけにはいかない。
時間をかけてゆっくり室温まで温度を上げ安定させるのだ。ダンボールもラベルも箱の中に入るしおりまで、商品と同じ温度に冷やし作業する。ラベルがはがれることなく、しおりも箱も傷むことなく流通するようにという心遣いからだ。
●新蔵
この広い敷地に新しいエコロージー蔵が建つ
2011年4月に着工される新蔵は、全館エコ化に踏み切る。「これからは蔵の姿勢が問われる時代」と11代目。照明はすべてLED。太陽光発電を採用し、CO2をできるだけ生み出さない酒蔵となる。水も99%地下に戻す施設を完備した。
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