災害・緊急時の言葉がけ
災害・緊急時の言葉がけ
<目次>
子供に安心を伝える
子供に安心を伝えるにはまず親が落ち着いて
被害の少ない場所にいる人も報道が気になるっても、テレビのつけっぱなしはやめましょう。視覚を使った情報伝達の影響力を考えると、子供に被災シーンを繰り返し見せるのは避けた方が賢明です。私達は言葉以外の部分でもコミュニケーションをとっています。行動や雰囲気からも多くの情報が伝わりますので、非常時の家族のルール(行動の仕方、集合場所等)を確認したら子供の前ではいつもどおりを演出するくらいの気持ちで接することをお勧めします。
阪神淡路大震災や新潟中越地震の際には、地震や停電を経験したことで、子供が急に暗いところを怖がるようになってしまった、情緒が不安定になってしまった、おむつに戻ってしまったなどの事例も報告されています。ついつい漏らしがちなネガティブな言葉も子供の前では我慢し、なるべく安心を伝えるよう心がけましょう。
安全に導く避難時の伝え方
震災を経験した人の体験談に「リーダーシップをとってくれた人のおかげで行動することができた」という声がありました。緊急時の指示のコツは、
- 落ち着いて
- ハッキリと
- 簡潔な指示を出す
です。パニックに陥った人も、小さな子供も、しっかりした指示を聞くことで行動がしやすくなります。
挨拶から始める近所の人とのコミュニケーション
震災の時は近所の人との助け合いがカギになる
都心に住んでいる方は、隣の人との交流もないかもしれません。そんな場合は、まずは挨拶から始めましょう。「そんな小さなこと」と思われる方もいるかもしれませんし、テレや慣習もあると思いますが、挨拶には思っている以上の効果があります。単純接触の繰り返しは、人間関係を近くするのに有効な手段であり、防犯の面でも効果が確認されています。挨拶をすることに慣れてきたら、挨拶に一言をプラスして、コミュニケーションを増やしていきましょう。
挨拶プラス一言の例)
おはようございます(挨拶)+今日は冷えますね(一言)
地震後なら「大丈夫でしたか」「大変でしたね」など、これまで話したことのない人に声をかけてみるのもいいでしょう。
人は知らない人には冷淡になる傾向があります(こういう状態を心理学では「ザイアンスの法則」をいいます)。イザという時に助け合うことができる土壌づくりは食料の備蓄以上に大切なのです。
ストレスが多い環境での伝え方
ストレス下では、声のトーン、スピードに気をつけて印象緩和を
震災を経験した人の体験談を調べたところ、「近所の人との助け合いが心強かった」というような声が多い一方で、「一緒に暮らすうちにイヤな思いをした」「本性が見えた」といったような関係悪化のケースもありました。
お互いが強いストレス下に置かれている場合、伝える側の言葉も強くなる傾向があるだけでなく、受け止める側も過敏になる傾向があります。思いやりというクッションをなくしがちな緊急時。傷つけ合わないためには、どのような点に気をつければいいのでしょうか。
ストレス下にある相手に対して話をする場合には、「どのような構造、順番で伝えるか、フォローの言葉をどうするか」といった準備を事前にしてから伝えるのがセオリーです。しかし自分もストレスにさらされていて、そういった準備をする余裕がない場合には、話し方の印象に気をつけることが有効です。言葉選びだけでなく、声のトーン、話すスピード、表情などを含め、いつも以上に丁寧に伝えることで印象を緩和できます。
特に、声のトーンは低め、話すスピードはややゆっくりにすると攻撃的でない印象になります。ストレス下の場合そのくらい気をつけても、やっと相手にはニュートラルに伝わる程度の話し方になります。
相手を攻撃するような伝え方もいけませんが、自分ばかりが我慢するのもよくありません。こういった環境では、自分も他人も大事にするコミュニケーションが必要になります。
人間心理と声かけの効果
私達は他者と自分の間にバランスを求め、公平である状態を好みます(こういう状態を心理学では「衡平理論」といいます)。そのため、物資の分配や我慢の分配がうまくいかない状態では大きな不快感を感じるでしょう。共有する有限なものを前にすると利己的な考え方をしてしまう心理も働きます。みんなの利益のために行動するか、個人の利益のために行動するかの葛藤が生まれてしまうのです(こういう状態を心理学では「コモンズのジレンマ」といいます)。そんな状況の中で助け合うためには、「声を掛け合う」「話し合う」ことが有効です。研究では、話し合いや情報交換、ルールなどによって協力行動が促されると報告されています。周囲の協力が得られるという期待感を持てるようになると、事態を好転させることが可能になるのです。ギスギスした環境では、いろいろな気持ちが芽生えてしまうのも当たり前。そんな時に自分や他者を責めてはいけません。隣の人に声をかけ、コミュニケーションをとり、助け合いの土壌を作ることで事態を好転させましょう。
いたわりの声をかけあおう
「聴く」ことを軸にして、いたわりの気持ちを伝え合おう
今回インタビューをさせてくれた阪神淡路大震災の被災者の方は「震災も仮設での生活もつらかったけれど、ボランティアの人に話を聞いてもらえて気分が少し落ち着いた」とおっしゃっていました。特に女性は、話すという行為でストレスを緩和しやすいと言われています。「大丈夫だった?」「つらくない?」などの声掛けをし、相手が話をしやすいきっかけを作るようにしていきましょう。
「頑張れ」の使い方に注意
一般的によく使われる「頑張れ」という言葉は、「これ以上どうやって頑張ればいいのだろう?」と受け取られてしまうこともあるので注意が必要です。つらい人に対しては、励ましよりも「聴く」に軸足を置くコミュニケーションをとるようにしたほうがいいでしょう。相手の話を聴き、心を寄り添わせる行為自体が励ましになります。言語だけがコミュニケーションではないことを思い出しましょう。震災が起きてしばらくすると、被害のない地域にいる人達にも「何もできない自分」というストレスがかかることがあります。あなたの周りにも無力感にさいなまれ、もどかしい思いをしている人もいるかも知れません。そういうストレスを感じた場合には、ぜひ「聴く」という貢献をしていただきたいと思います。普通に振る舞っている人の中にも、親戚や知人が被災して苦しさを抱えている人がいるかも知れません。そういった人に気遣い、心を寄り添わせるのも立派な貢献なのです。
聞き流すスキルも必要な時期
災害時は、根拠のない風説が流れやすい時期でもあります。人からの話を判断するポイントは、事実、推測、意見に整理しながら聞くことです。特に、事実と推測は一緒にして語られることが多いので注意してください。事実として語られている部分については、情報の出どころを聞くようにします。情報の出どころがハッキリしないような状況の場合、確実でない情報を聞き流すスキルも重要になってくるでしょう。この時期に消費をすることを不謹慎だと言う人もいます。日本経済をこれ以上停滞させないためにも被害のなかった地域の方には、むしろ普通に働き、普通に消費をしてもらって経済を停滞させないようにするべきという人もいます。いろいろな考え方の人が、いろいろな意見を押しつけあう場面では、言葉の力を受け流す強さが必要です。
人は非常時には、思いをうまく伝えられない状態に陥ります。それを認識しておけば、過度に傷ついたり相手を責めることを減らせるはずです。私の好きな言葉に「言葉は人間の用いる最も強力な麻薬だ」(イギリスの作家キプリングの言葉)があります。言葉は、麻薬のように人の心や身体を蝕んでしまうこともあれば、痛みを和らげる薬のような効果も持ち合わせています。こんな時だからこそ、言葉を選び、伝え方を工夫し、復興へむけて力を合わせていきましょう。
【関連記事】