MRの転職/MRの仕事

医薬品の研究開発から流通まで-基本と最近の課題-(2ページ目)

新しい薬の開発が成功する確率は6000分の1という気の遠くなるような低さです。また基礎研究から薬が出来上がるまでには10~18年の歳月がかかり、その間の開発コストは150~200億円にものぼります。医療費増大を抑制する政策や超高齢化の進展など、医薬品業界は様々な環境変化に対応していかなければならず、MRとして転職先を検討する際にはそうした環境変化に各社がどう対応しているかを把握しておくことも重要です。

高橋 俊夫

執筆者:高橋 俊夫

MRの転職ガイド

医薬品の製造販売承認申請と認可

長い時間とお金をかけて有効で安全な薬を開発できても、すぐにそれを販売することはできません。医薬品を販売するには国の認可を受けることが法律で定められています(医薬品医療機器等法:旧薬事法)。日本で認可を受けるためには厚生労働省に「製造販売承認申請」を行います。申請されると医薬品医療機器総合機構で審査され、その審査結果を基に薬事・食品衛生審議会で審議されますが、承認申請から認可まで通常は1~2年待たなければなりません。

製造販売承認とドラッグラグ

薬の承認に関連しては「ドラッグラグ」という言葉をよく耳にします。この言葉は主に新しい薬が外国で承認されてから日本で承認されるまでの「時間差」を指して使われます。たとえば新しい薬が世界で最初に発売されてから自国で発売されるまでの期間を見ると、以前はアメリカやイギリスなどが1.2~1.3年なのに対して日本は4.7年かかっており、香港の3.1年、韓国の3.6年よりも1年以上時間がかかっていました(日本製薬工業協会資料)。しかし平成24年度の医薬品医療機器総合機構の調査ではドラッグラグは0.3年と試算されており、年度によって試算の年数は異なりますがドラッグラグはかなり解消されてきていると見ることができます。
医薬品業界の環境変化に伴い製薬企業にもいくつかの課題が。

医薬品業界の環境変化に伴い製薬企業にもいくつかの課題が。


良い薬ができたら一刻も早く治療に使えるようにするために、これまでにも下記のような取り組みがなされてきており、また日本初の革新的技術であるiPS細胞を活用した再生医療で世界をリードしようという国を挙げての取り組みもありますので、そうしたことがドラッグラグの短縮化につながってきているものと考えられます。

  1. 承認審査を行う医薬品医療機器総合機構の審査員の増員
  2. 試験データを審査期間前の開発段階ごとに事前に審査できるようにする
  3. 同一の計画に基づいて臨床試験を行う国際共同治験の利用促進
     

医療費増大の抑制と薬価改定

薬価」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは患者が医療機関や保険薬局で処方箋に記載された薬を買うときの価格です。一般の商品の「小売価格」に該当します。他の業界では小売価格はそれぞれの販売業者が自由に決められますが、薬の場合は違います。患者が支払う薬の代金の7割~9割は健康保険によって賄われます。そのため薬の小売価格は医療機関や保険薬局が自由に決められず、国(厚生労働省)によって決められます。新しい薬が承認されると薬の小売価格である薬価も厚生労働省によって決められます。

高齢化の進展に伴う著しい医療費の増加が社会全体の懸案事項となっているなか、国は様々な医療費抑制政策をとっています。その1つとして厚生労働省では定期的に(現在は2年に1回)薬価の見直しを行っています(※2017年4月現在、国は薬価を毎年見直すことも検討しています)。

ジェネリック医薬品の普及がもたらす製薬業界の構造変化

薬は特許が切れると、同じ有効成分で価格の安いジェネリック医薬品が登場するため、大きく売上が減少する可能性があります。そのため膨大な研究開発費のかかる新薬を開発し続けていくためには、特許が有効な期間に十分な収益を上げなければなりません。日本のように特許の有効期間中も薬価が下り続ける現状では、研究開発費を継続的に賄うことが難しくなるとして製薬業界では「特許期間の新薬の中で一定要件を満たすものについては価格の改定をおこなわず、後発医薬品が発売された後にまとめて引き下げる」という方式を提唱し、この方式が2010年4月から試験的に導入されています。

薬価の見直しと共に製薬企業にとって影響の大きな問題が「ジェネリック医薬品の本格的な普及」です。日本ではなかなかジェネリック医薬品は普及してきませんでしたが、医療費抑制のために政府が取り組んできた結果、日本でも2018年から2020年頃には欧米並みにジェネリック医薬品が普及する見通しとなりました。これまでのようにジェネリック医薬品があまり普及していないと、特許の切れた薬(長期収載品)も安定的な収益源となって製薬企業の業績を下支えしてきました。しかし今後は特許が切れると瞬く間にジェネリック医薬品に置き換わってしまうためこれまで以上に継続的に新薬を開発し続けられる力が必要となります。MRとしての転職先を検討する際には、こうした観点から各社の力を評価しておくことも重要です。

医薬品流通の特徴とMRの役割

新しく開発された薬は薬価が決まると、ようやく医療機関や保険薬局に売ることができるようになります。

製薬企業がつくった医薬品のほとんどは医薬品卸会社を経由して医療機関や保険薬局に売られます。そのため医療機関などに対する販売価格を決めるのは卸会社となり、製薬企業には決められません。従ってMRは自社の医薬品を販売するために価格を利用できません。

そこでMRは値引きなどの価格面での訴求に頼らず、薬を処方する権限を持つドクターに対し薬物治療のパートナーとして様々な貢献をしていくことで信頼を得ていく必要があります。そうした活動のなかで、自社の医薬品がどれだけ安全で治療に効果があるかという点を理解してもらい、自社の医薬品を普及させていくことがMRの役割となります。

最近ではドクターはインターネットで必要な情報を素早く入手できますし、ドクターを対象にしたWedマーケティングを手がける企業も増えてきました。こうした環境変化の中で、MRは生産性を高めていくと同時にWebマーケティングなどに置きかえられないMRならではの役割を生み出していくことが必要になってきています。

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