政策の方向を見据えた助成金の活用
厚生労働省関連の助成金は、政策誘導のために創設されるケースが多いです。たとえば、派遣社員の雇用が不安定であるという政策課題があるとします。その場合にいきなり派遣社員の正社員化を法律で義務付けるのではなく、助成金等を活用することで、企業が自発的に派遣社員を正社員化するように誘導します。このような政策の手法は、ソフトロー・アプローチと呼ばれます。助成金を戦略的に活用しようと思うのであれば、行政のソフトロー・アプローチにうまく合わせればいいのです。65歳までの雇用確保義務化の時も、助成金が活用されました。60歳定年の企業にいきなり65歳までの雇用を義務化させることは困難です。そこで助成金を創設して、65歳まで雇用する制度を導入した企業に助成金を支給することで政策実現を図ったのです。
多くの企業が65歳までの雇用を確保する制度を導入した時点で、国は法律を改正して65歳までの雇用確保を義務化しました。最終的に義務化されるのであれば、早めに行政のソフトロー・アプローチに応じて、助成金を受給した方が得なのです。
助成金の活用はタイミングがポイント
助成金は政策課題の解決のために創設されるので、政策課題がある程度解消された時点で廃止となります。助成金を活用しようと思っていても、タイミングが合わないと受給できません。私のクライアントでも、経営環境の悪化を背景に助成金の活用に踏み切れず、みすみすチャンスを逃してしまったケースが多々あります。助成金はあくまでも会社の費用支出に対する助成です。従業員を雇用したり、職場環境を整備することは助成金の受給額以上のコストがかかります。会社の業績が悪化しているのに、助成金を受給するために制度を導入するというのは本来の姿ではありません。あえて助成金の活用を見送るというのも戦略的な判断です。
逆に先進的な企業では、タイミングが早すぎて助成金が受給できないというケースも起きます。私のクライアントでも、世の中の動きに先駆けて65歳定年制を早々と導入した企業があります。当時は65歳までの雇用の確保が政策課題に上がっていましたので、私は「そのうち助成金が創設されますから、それから65歳定年にしてはどうですか」とアドバイスしました。しかしその企業は先進的な企業だったので、助成金の受給とは関係なく65歳定年を導入しました。これも立派な戦略的判断です。
助成金をうまく活用できるのは、時代のちょっとだけ先を行く企業だけです。早すぎても遅すぎてもいけません。