田亀源五郎『童地獄・父子地獄』
『童地獄・父子地獄』 田亀源五郎/ポット出版/ A5判 256ページ/2,400円+税
田亀源五郎さんは『バディ』誌でゲイ漫画史に残る金字塔『銀の華』を連載し、『G-men』誌の表紙絵や『プライド』などの連載を手がけただけでなく、パリで個展が開催されたり、作品がフランス語版で発売されたり、ニューヨークやシドニーなどでも作品が展覧されるような世界的なアーティストです。また、ゲイ雑誌で活躍してきたアーティストたちの歴史を解題した『日本のゲイ・エロティック・アート』の編纂を手がけ、村上隆さんとも対談するなど、以前はアンダーグラウンドでしかなかったゲイ・エロティック・アートの社会的地位を高める仕事にも携わっています。
今回の田亀さんの『童地獄・父子地獄(わっぱじごく・おやこじごく)』は、『バディ』誌に連載されていた作品を集めた本です。父子責めをテーマにした表題作『童地獄・父子地獄』を加筆したものと『Der fiegende Hollander』『哀酷義勇軍』『告白』という3本の短編を収録しています。
『禁断』と同様、函入りになっており、表紙絵はこの本のために田亀さんが描き下ろしたもの。そして、この表紙絵に合うよう、和紙のような手触りの「きぬもみ」という紙が使用されています。本を愛する人たちの手になるこだわりのクオリティが感じられます。
表題作の『童地獄・父子地獄』は、『バディ』らしく、若くて締まった体の男の子が主人公。戦国時代、母親を領主(殿様)に奪われた恨みから復讐しようとするも捕われの身となり、ありとあらゆる陵辱を受け、それだけでなく、彼の父親もまた捕われ、あろうことか父子で嬲り者にされるという、この世の生き地獄を描いています。果てしない苦行に思えたその地獄が終焉を迎えるとき…時代絵巻的な芸術作としての極みに達し、深い感動を喚び起こします。
ゴトウは巻末に収められた現代モノの『告白』がとても好きでした。チンピラに呼び出されたクマ系刑事が、気づけばベッドに手を縛られ、身動きできない状態で…というストーリーですが、シブい男の世界に萌えつつ、チンピラの不器用な愛の表現に思わず共感させられます。『仁義なき戦い』的な映画に入っていてもおかしくない、ホロリとさせられる名作でした。
この『童地獄・父子地獄』がいたずらに劣情をそそるだけのゲイSM漫画ではないということは、読んだ人たちにも伝わるはずです。
東京都青少年健全育成条例改正にからんで、都知事が同性愛作品をも規制しようとする意図を仄めかした今、この作品集を読む感慨はひとしおです。
世界の田亀源五郎作品の重みを、ゲイ・エロティック・アートの素晴らしさを、ゲイプライドとともに再確認しようではありませんか。
この作品集を世に送り出したポット出版のみなさん(ノンケの方たちです)の心意気にもまた、拍手を贈りたい気持ちです。(ポット出版はこれまで伏見さんの著作やパレードの本など、同性愛に関するたくさんの書籍を発行してきた、素晴らしくゲイフレンドリーな出版社です)