眠る人々
終電車に近い、深夜の電車内。郊外へ向かう路線では、駅を過ぎるごとに乗客が減っていく。都心へ向かう上り電車は、まばらな乗客で車両も軽そうだ。ほとんどの客は酔っているか、疲れてもいるのだろう。目を閉じ、うなだれている。シートの両脇には手すりやパネルがあり、乗客の多くはよりかかるようにそこに座っている。シートの中程には、脇にカバンを置いて顔を上げ口を開けたままイビキをかいている男性もいる。まるで催眠電車かと見間違えそうな不思議な光景だ。
若い女性の場合その1
若い女性が深夜の電車内で眠っている。7人掛けのシートの端で、バッグを膝の上に載せてうなだれている。ときおり、顔を上げて眠るまいと努力しているようだが、睡魔には勝てないのだろう。何度もガクンと頭が落ちる。車内はごく空いており、皆、バラバラに座っている。女性はひどい眠気で、つい深く吸い込まれるように眠ってしまった。アレッと、気がついて向かいのドアの外の気配を見る。
(ここはどこ? あ、降りる駅はまだよね。よかった)
と、少し安心して軽く座り直す。ふと気がつくと、すぐ隣りに人が座っている。
驚愕!
(空いた電車内なのに、なぜ、私のすぐ横に座っているの?)と、ぼんやりと思っていると、何か気に障るものが目に入った。隣に座った若い男が、雑誌を盾にして他の乗客からは見えないように、女性にだけ見えるように、自分の体の一部を露出している!
(うげっ! 露出魔!? やだ、どうしよう?)
驚いて体が硬直して、身動きができない。声も出せない。隣の男が自分の顔を横目で見ていることだけは、雰囲気でわかる。
(どうしよう?)
と、思ったすぐ後に、すっくと立ち上がり、隣の車両に移動した。ついてこられても困る。チラリと後ろを見て男が着いてこないことを確かめながら、もう一つ次の車両に移動して、ちょうど滑り込んだ次の駅で電車を降りた。男は降りてこなかった。
すっかり眠気が醒めて、ホームで次の電車を待つことにする。
(やっだー、もう。なんであんなことするのー? 信じらんない! 見たくもないのに!! でも、私、あんな男が隣りに座ったことにまったく、気がつかなかった。眠らないようにしていたけど、眠っちゃったんだ。どれくらい隣りにいたのかな。全然、わかんないや)
やっと来た次の電車に乗り込み、今度は座らずに下車駅まで立ったままでいた。
→若い女性の場合その2
→→男性の場合/仮睡者狙い
→→→統計資料より/被害に遭わないために