請求が多いのは「水濡れ損害」だが
火災保険、請求が多いのは「水濡れ」
清水 火災保険では、どんな事故に関する請求が多いのですか?
Hさん 地域によりますね。エリアごとに請求に特徴があります。たとえば、九州では風災が多いですし、東北地方では雪災が多い。群馬などの北関東では、落雷による被害が多いですね。異常気象による影響も最近はあるようです。
清水 では、地域問わず多いのは?
Hさん マンションや一戸建て問わず、「水濡れ損害」の請求が多いですね。
清水 水濡れ損害というのは、給排水設備で起こる一定の事故による水濡れのことを指していますよね(※記事「火災保険の水濡れ損害とは?」参照)。
Nさん そうです。ただ、ここは勘違いされている方が多いのですが、水濡れ損害のすべてが火災保険の対象というわけではないんです。水濡れ損害のご連絡をたくさんいただくものの、保険金支払いの対象にならないケースも多いんです。
Hさん 台風では保険金支払いの対象外の水濡れ事故が多いですね。たとえば、建物にそもそも隙間が生じていたとか、瑕疵があった建物に、台風によって雨の「吹き込み損害」が生じて、水濡れになったケース。これは保険金の支払いの対象外なんです。台風の風によって建物が壊れ、それによって雨の吹き込み損害が生じたのなら、風災(記事「風災・ひょう災・雪災ってどんなの?」参照)ですから保険金が支払われるのですが、そもそも壊れていた建物であれば、風雨が吹き込むのは必然ですから、保険金支払いの対象外となってしまうんです。建物の瑕疵ということなら、購入から一定期間内であれば施工業者や販売業者からの補償を受けられることもあります。
清水 「老朽化」によっておきた事故はどうなりますか?
Hさん 火災保険は約款に記載されている偶然な事故による損害が対象です。ですから、水濡れの原因が何らかの偶然な事故によるものなら対象ですが、老朽化によって当然に起こったものは「必然」。原因が偶然な事故によるものでないのなら、火災保険の保険金支払い対象にはなりません。
建物の老朽化で起きたトラブルは「必然」
どんな建物でも老朽化は避けられない
Nさん たとえば、古い公営住宅などで、排水管に「さび瘤(こぶ)」ができている場合があります。つまり、排水管が老朽化で動脈硬化状態になっているわけで、こうなると排水能力が半分ぐらいになってしまうこともあるんです。こうした状態で、たとえば水を出しっぱなしにすれば、排水が追い付かず水があふれて水濡れ、となるかもしれません。しかしながら、さび瘤は老朽化により必然的に起きること。排水能力の低下で起きた水濡れは偶然な事故には当たりませんから、保険金は支払われないんです。
Hさん ベランダの排水溝のトラブルもありますね。激しく雨が降っただけでベランダの排水溝があふれてベランダがプールのような状態になり、室内まで水が押し寄せて水濡れ損害が生じるケースです。ただ、何の原因もなくこうした状態になるのは、そもそもその排水設備の排水能力の限界ということでしょう。そうであればこれは必然的に起きることなので、火災保険の対象にはなりません。
清水 水濡れ損害を自腹で復旧しなければならないなんて、本当につらいですね。
Nさん そもそも、最近のゲリラ豪雨を想定して、建物が作られていないんですね。
清水 そうなると、火災保険以前に、どこに住むか、そしてどのような建物を選ぶかが、損害を被らないために一番大切になりますね。
Nさん そうですね。加えて、購入後のメンテナンスを欠かさないことが、そもそも事故を起こさないための重要なポイントなのですが、残念ながら充分でないお客さまも少なくありません。
清水 火災保険も1つの商品です。住まいのトラブルに対して万能というわけではないですよね。マイホームを購入するなら、火災保険の補償内容を理解しておくと同時に、不測の事態の時に必要となる建物の修繕費用なども別途準備しておく必要がありますね。
Nさん 保険金の支払い対象外となった事故の場合、今回の事故は保険金の支払い対象外ですよ、としっかりと説明しなければならないのですが、大きな損害を被っていることもあって、なかなか納得できないお客さまもいらっしゃいますね。
清水 何にせよ、契約時に、どういう場合に保険金が出る・出ないをきちんと確認することが、請求時にトラブルにならないためにも大切、ということですね。
Nさん そうですね。火災保険は契約時の確認がとても大切な保険だと思いますよ。
他人の家屋へ及ぼした水濡れ損害は「個人賠償責任保険」で
階下への水濡れ損害は「個人賠償責任保険」で
Nさん それだけではありません。水濡れで居住できないような状態なら、被害者の世帯は仮住まいが必要になります。加害者側は、直接的な損害額だけでなく、損害の結果、間接的に生じたこれらの必要費用も払わなくてはなりません。そのため、複数世帯に対して被害を及ぼしたケースでは、数千万円など大変な賠償額になることもあります。
清水 それは大変! でも、こうした場合には、個人賠償責任保険(「個人賠償責任保険とは?」)の契約があれば、被害者世帯の修理費を補償してもらえますよね。
Hさん そうです。ただ、個人賠償責任保険は、契約者が法律上の損害賠償責任を負った時に、その損害を補償するものです。つまり、契約者の過失などではなくて、たとえば、リフォームを施した内装施工業者などの工事ミスにより生じた事故であれば、施工業者から賠償を受けることになります。あるいは、リフォーム後の住宅を購入したなら、住宅販売業者から賠償を受けることになりますね。こうした責任関係がはっきりしない段階では、保険会社から速やかな補償が受けられないことが多いです。
清水 「加害者だとはっきりしたら請求してね」ってことですね。でも、一旦水濡れ損害が生じれば、被害者世帯はその家に住めなくなるなど緊急度の高い状況となってしまうこともありますから、それでは困ってしまいますね。原因をはっきりさせるといっても、時間もかかるでしょうし。
Hさん その通りです。見積もりを取ったり、鑑定人がそれを精査したり……といった流れの中で、2~3カ月そのままになって復旧ができないケースもあるのです。しかし、実際に被害を受けて困っている方がいるわけで、当社では、まずは被害者救済の観点から、緊急性の高いケースは、お客さま(契約者や被保険者)に責任がありそうだと見込んだ段階で対応していますよ。
清水 それは助かりますね。でも、原因が契約者になかったことがあとから分かったら、被害者に支払った保険金はどうするんですか?
Nさん 被害者へ保険金を支払った後で、事故の原因がたとえばリフォーム施工業者だった、といった場合には、支払った保険金の範囲内で、保険会社からその施工業者に求償(賠償を求める)をします。
清水 なるほど。あくまでも、事故についての責任がある人が修理費を負担するのが筋ですものね。
賠償を受けても自分の火災保険からも「費用保険金」はもらえる
Hさん ちなみに、被害者が加害者側の個人賠償責任保険から家屋等の修理費の補償を受けた場合、自身で契約している火災保険から保険金を受け取ることはできません。1つの損害に対して、二重に保険金を受け取ることはできませんからね。ただ、自身の火災保険に「費用保険金(「火災保険の「費用保険金」とは?」)」がセットされているなら、こちらは別途受け取れますよ。清水 では、火災保険に費用保険金がセットされているなら、忘れず請求しないといけませんね。最近の火災保険は費用保険金の着脱が自由のものもありますが、以前販売されていたものは、契約者に着脱の自由はなく、自動的にセットされていましたからね。
【インタビューの続きはこちら】
損害調査担当に訊く 火災保険事故のウラ側 その2
損害調査担当に訊く 火災保険事故のウラ側 その3
【関連リンク】
火災保険の水濡れ損害とは?
風災・ひょう災・雪災ってどんなの?
個人賠償責任保険とは?
火災保険の「費用保険金」とは?